職場のメンタルヘルスを守る!セルフケア×ラインケアの極意
長時間労働や人間関係の悩み…現代社会において、職場でのストレスはもはや避けて通れないものとなっています。厚生労働省の調査でも、メンタルヘルス不調で休職する人は増加傾向にあり、企業の損失にも繋がっています。
本記事では、セルフケアとラインケアの両面から、職場のメンタルヘルスを守るための具体的な方法を紹介します。日々の生活に疲弊しているあなたも、同僚の変化が気になるあなたも、ぜひこの記事を参考に、心身ともに健康な状態を保ち、活き活きと働くためのヒントを見つけてみてください。
職場におけるメンタルヘルスケアの重要性
職場での人間関係や仕事のプレッシャーは、心身の健康に大きく影響します。ストレスを放置すると、不眠や集中力の低下を引き起こし、最悪の場合、うつ病などの精神疾患につながることもあります。企業にとっても、メンタルヘルス不調による休職者の増加は大きな課題です。
厚生労働省の公表した資料「精神障害の労災補償状況」によると、職場でメンタルヘルス不調を抱えている人は年々増加していることが分かります。
令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | 令和4年 | 令和5年 | |
請求件数 | 2060 | 2051 | 2346 | 2683 | 3575 |
決定件数 | 1586 | 1906 | 1953 | 1986 | 2583 |
これを防ぐためには、「セルフケア」と「ラインケア」の両方が重要です。セルフケアは、睡眠や運動、趣味を通じて自分の心身を整えること。一方、ラインケアは、職場の上司や同僚が周囲に気を配り、支え合うことです。
この二つのアプローチをバランスよく取り入れることで、心身の健康を維持し、より良い職場環境を築くことができます。
職場メンタルヘルス不調のサインを見つける3つのポイント
職場でのメンタルヘルスは、私たちの生活の質を大きく左右します。毎日元気に働くためにも、ご自身の心身のサインに耳を傾け、早期に異変に気づくことが大切です。
今回は、職場におけるメンタルヘルス不調のサインを早期発見するための3つのポイントを、「身体のサイン」「心のサイン」「行動のサイン」に分けて詳しく解説します。健康診断のように、自分の状態を定期的にチェックしてみましょう。
身体のサイン:疲労感、睡眠障害、食欲不振など
身体のサインは、メンタルヘルス不調の初期段階で現れやすい重要なサインです。風邪の初期症状のように、見逃さずに対応することが大切です。
例えば、慢性的な疲労感。普段は階段の上り下りも楽々なのに、最近では少し動いただけで息切れがする、といったことはありませんか?朝起きても疲れが取れず、一日中体が重だるい、といった状態が続いている場合も要注意です。
また、睡眠にも変化が現れることがあります。夜なかなか寝付けない、夜中に何度も目が覚めてしまう、朝早くに目が覚めてしまい再び眠れない、といった睡眠トラブルは、メンタルヘルス不調のサインかもしれません。以前はぐっすり眠れていたのに、最近睡眠の質が低下していると感じたら、自身の心の状態に目を向けてみましょう。
さらに、食欲にも変化が現れることがあります。以前は美味しく食べていたものが、最近では味がしなくなったり、食事量が減ったりしていませんか?反対に、ストレスから過食気味になっている場合も、心の状態が影響している可能性があります。
その他にも、頭痛、肩こり、動悸、息苦しさ、めまい、胃腸の不調など、様々な身体症状が現れることがあります。これらの症状が単独で現れることもありますが、複数の症状が同時に現れることもあります。
もしこれらの症状が長く続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
心のサイン:不安感、イライラ、集中力の低下など
心のサインは、身体のサインに比べて自覚しにくいものです。しかし、感情の変化に意識を向けることで、メンタルヘルス不調の早期発見につながります。
例えば、漠然とした不安感。将来への漠然とした不安や、仕事がうまくいかないことへの心配など、理由がはっきりしない不安が続く場合は要注意です。まるで霧の中にいるように、将来が見えず不安な気持ちになることはありませんか?
また、些細なことでイライラしたり、怒りっぽくなったりしていませんか?例えば、朝の満員電車での遅延や、同僚のちょっとしたミスに過剰に反応してしまうなど、感情のコントロールが難しくなっている場合も、心のサインの一つです。
さらに、集中力の低下も重要なサインです。以前は難なくこなせていた仕事に集中できなくなったり、ケアレスミスが増えたり、ぼーっとしてしまう時間が長くなったりする場合は、メンタルヘルス不調が影響している可能性があります。
その他にも、気分の落ち込み、やる気が出ない、自分を責めてしまう、悲観的な考えが浮かぶなど、様々な心のサインがあります。
行動のサイン:遅刻・欠勤の増加、仕事のミス増加など
行動のサインは、周囲の人から見ても分かりやすいサインです。同僚や家族など、周りの人がいつもと違う行動をしている場合は、声をかけてみるのも良いでしょう。
例えば、遅刻や欠勤の増加。これまで時間厳守で真面目に出勤していた人が、急に遅刻や欠勤が増える場合は、メンタルヘルス不調のサインかもしれません。
また、仕事のミス増加も要注意です。単純なミスが増えたり、仕事の質が低下したり、仕事のペースが遅くなったりする場合は、メンタルヘルス不調が影響している可能性があります。
その他にも、仕事への意欲の低下、周囲とのコミュニケーションの減少、飲酒量の増加、喫煙量の増加、暴飲暴食など、様々な行動のサインがあります。
これらのサインは、単独で現れることもあれば、複数組み合わさって現れることもあります。また、必ずしもメンタルヘルス不調を示すものではありませんが、複数のサインが重なっている場合は、注意が必要です。少しでも気になることがあれば、早めに専門機関に相談することをお勧めします。
職場でできるメンタルヘルス対策5選:セルフケア編
職場でのストレスや不安、なんとなく気分がすぐれない… 誰もが一度は経験することですよね。
今回は、職場で実践できる手軽なメンタルヘルス対策を以下の5つご紹介します。
- 十分な睡眠とバランスの取れた食事を摂る
- 趣味やリラックスできる時間を作る
- 適度な運動をする
- 気分転換をする
- 感謝の気持ちを持つ
十分な睡眠とバランスの取れた食事を摂る
心と体は密接に繋がっています。質の高い睡眠と栄養バランスの良い食事は、心身の健康を支える土台と言えるでしょう。
睡眠不足は脳の疲労を招き、集中力の低下やイライラの原因となります。これは、長時間の運転で注意力が散漫になるのと同じ原理です。質の良い睡眠を確保するために、毎日同じ時間に寝起きする、寝る前のカフェイン摂取を控える、快適な睡眠環境を整える などの工夫が必要です。寝つきが悪い、夜中に目が覚めるといった症状が続く場合は、睡眠外来の受診 も検討しましょう。
食事のバランス も心身の健康に大きく影響します。偏った食事は、血糖値の急変動を引き起こし、気分のムラやイライラの原因になります。また、ビタミンやミネラル不足は脳機能を低下させ、メンタル不調を引き起こす可能性も考えられるでしょう。主食・主菜・副菜をバランスよく摂り、規則正しい食生活を心がける ことで、心も体も健康を保つことができます。
趣味やリラックスできる時間を作る
仕事で疲れた心身を癒す時間は、心身の健康維持に不可欠です。好きなことに没頭したり、リラックスできる時間を作ることで、ストレスを軽減し、心のバランスを取り戻すことができます。
まずは趣味を楽しんでみましょう。絵を描く、音楽を聴く、読書をする、映画を観るなど、自分が夢中になれる趣味を見つけて没頭することで、仕事のことを忘れ、心身のリフレッシュを図ることができます。
また、自分だけのオリジナルのリラックス方法も見つけましょう。アロマを焚く、瞑想をする、ゆっくりとお風呂に入るなど、自分にとってリラックスできる方法を見つけて、実践してみてください。
デジタルデトックスも実は重要です。寝る前のスマホやパソコンの使用は、脳を興奮させ、睡眠の質を低下させる可能性があります。就寝1時間前には使用を控え、心身をリラックスさせましょう。
適度な運動をする
運動は、ストレスホルモンの分泌を抑制し、幸福感をもたらす脳内物質であるセロトニンの分泌を促進する効果があります。
運動によって生活リズムが整い、睡眠の質の向上にも繋がります。軽いウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で体を動かす習慣を身につけましょう。1日30分程度のウォーキングや、自宅でできる簡単なストレッチでも効果があります。
また運動の時間を取るのが難しい場合は、日常生活に取り入れてみるのがおすすめです。エスカレーターではなく階段を使う、一駅分歩くなど、日常生活の中で体を動かす機会を増やすだけでも効果を感じられます。
運動は気分転換にもなります。。外の景色を見ながらウォーキングしたり、好きな音楽を聴きながら体を動かすと、心身ともにリフレッシュできるでしょう。
気分転換をする
同じ作業を長時間続けたり、同じ環境に長時間いると、ストレスが溜まりやすくなります。
これは、同じ姿勢を長時間続けると体が凝り固まってしまうのと同じように、心も同じ刺激に長時間晒されていると疲弊してしまうのです。
定期的に気分転換をすることで、気持ちを切り替え、集中力を取り戻すことができます。50分に1回は5分程度の休憩を挟む、1~2時間に1回は15分程度の休憩を挟むなど、タイマーを使って休憩時間を確保すると良いでしょう。
また座りっぱなしの作業が多い方は、軽いストレッチで体をほぐすのも効果的です。肩甲骨を回したり、首をストレッチしたりするだけでも、気分転換になります。気分転換に、散歩に出かけたり、カフェで作業をするのも良いでしょう。
感謝の気持ちを持つ
感謝の気持ちを持つことは、 ポジティブな感情を育み、ストレスを軽減する効果があります。人は、ネガティブな感情に囚われると、視野が狭くなり、問題解決能力も低下してしまいます。
感謝の気持ちを持つことで、物事を前向きに捉えることができ、ストレスへの抵抗力を高めることができます。
- 小さなことにも感謝する:心が満たされ、ストレス軽減につながる
- 感謝日記をつける:当たり前に対して感謝の気持ちを持てる
- 周りの人に感謝を伝える:相手との信頼関係が深まり、良好なコミュニケーションを取れる
職場のメンタルヘルス不調を防ぐラインケア4選
職場での人間関係や仕事のプレッシャーは、誰しもが経験するものです。しかし、それらが過度になると、心身に悪影響を及ぼし、メンタルヘルス不調に陥る可能性があります。
ここでは、職場の同僚や上司が、周りの人のメンタルヘルスを守るための「ラインケア」について、具体的にご紹介します。ラインケアとは、職場の上司や同僚が、部下や同僚のメンタルヘルスに気を配り、サポートすることです。
早期発見・早期対応が重要となるメンタルヘルス不調において、ラインケアは非常に重要な役割を担っています。職場のメンタルヘルス不調を防ぐために、以下のラインケアに取り組んでみましょう。
- 声掛け、相談しやすい雰囲気づくり
- チーム内での情報共有と協力体制の構築
- 労働時間管理と休暇取得の推奨
- 研修や相談窓口の設置
声かけ、相談しやすい雰囲気づくり
職場で気軽に相談できる雰囲気を作ることは、メンタルヘルス不調の予防に繋がります。相談しやすい雰囲気とは、どのようなものでしょうか?
具体的な方法としては、日頃から「最近どう?」と声をかける、雑談を通して相手の様子を伺うなど、相手に関心を持ち、話を聞きやすい雰囲気を作ることを意識してみましょう。
例えば、相手の目を見て話す、相槌を打ちながら話を聞く、笑顔で挨拶をする、休憩時間などに雑談をする、困っている様子の時には「何か手伝おうか?」と声をかける、といった行動を意識的に行うことで、相談しやすい雰囲気づくりに繋がります。
一方で、プライベートなことを無理に聞き出さない、否定的な言葉や批判的な発言をしない、相談内容を他の人に話さない(守秘義務を守る)といった点にも注意が必要です。
チーム内での情報共有と協力体制の構築
チーム内で仕事の情報や進捗状況を共有し、互いに助け合う体制を作ることも、メンタルヘルス不調の予防に繋がります。
具体的な方法としては、毎日の朝礼で今日の業務内容や各自の担当を確認する、タスク管理ツールや共有ファイルを活用して進捗状況を可視化する、困っている人がいたらチームでサポートする、などを実践することで、一人で抱え込まずに仕事を進めることができます。
また、チームで仕事をする上でのルールやマナーを明確にすることも大切です。例えば、「報連相を徹底する」「相手の意見を尊重する」「困った時はすぐに相談する」といったルールを設けることで、チーム全体の連携をスムーズにし、互いに協力し合う土壌を育むことができます。
労働時間管理と休暇取得の推奨
長時間労働や過重労働は、メンタルヘルス不調の大きな原因となります。まるで長時間運転し続けると、集中力が低下し事故に繋がるように、過度な労働は心身に大きな負担をかけ、メンタルヘルス不調のリスクを高めます。
上司や同僚は、適切な労働時間管理を行い、休暇取得を積極的に推奨する必要があります。
具体的な取り組みとしては、タイムカードシステムの導入や残業時間の記録と管理の徹底、年次有給休暇の取得計画の策定、休暇取得しやすい雰囲気づくりなどが挙げられます。
また、ノー残業デーの設定や、フレックスタイム制、テレワークなどの導入も、労働時間管理と休暇取得を促進する上で効果的です。
研修や相談窓口の設置
メンタルヘルスに関する研修を実施したり、相談窓口を設置することで、従業員が気軽に相談できる環境を整備することができます。
研修では、メンタルヘルス不調のサインやセルフケアの方法、ラインケアの方法などを学ぶことができます。まるで、地図を持って旅に出るように、知識を身につけることで、メンタルヘルス不調の予防や対処に役立てることができます。
相談窓口では、専門のカウンセラーに相談することで、具体的なアドバイスやサポートを受けることができます。これは、まるで、道に迷った時にガイドに案内してもらうように、専門家のサポートを受けることで、適切な対応策を見つけることができます。
これらの取り組みを通して、職場のメンタルヘルス対策を強化し、誰もが安心して働ける、より健康的な職場環境づくりを目指しましょう。
まとめ
職場でのメンタルヘルス対策について、セルフケアとラインケアの両面から具体的な方法を紹介しました。 毎日の仕事の中で、心が疲れてしまうことは誰にでもあると思います。 だからこそ、日々の小さな心がけが大切です。
セルフケアでは、睡眠、食事、趣味、運動、感謝など、基本的な生活習慣を整えることから始めてみましょう。 ラインケアでは、職場の同僚や上司が、周りの人に気を配り、困っている人に手を差し伸べることが重要です。
少しでも「心が疲れたな」と感じたら、今回紹介した方法を試してみてくださいね。 そして、一人で悩まずに、周りの人に相談したり、専門機関に頼ることも選択肢の一つとして覚えておいてください。
産業医 / 健康経営アドバイザー 松田悠司