【徹底解説】ストレスチェックの目的とは?企業が守るべき3つのポイント
毎年実施している「ストレスチェック」。 ご担当者様の中には、「法的な義務だから実施しているが、正直なところ事務作業の負担が大きい」「結果をどう活かせばいいのか分からない」といったお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
しかし、ストレスチェックは単なる「ガス抜き」や「コンプライアンス対応」ではありません。正しく活用すれば、従業員のメンタル不調を防ぐだけでなく、組織の生産性を高め、企業リスクを回避するための強力な経営ツールとなります。
今回は、産業医の視点から「ストレスチェックの本来の目的」と、企業が運用するうえで「守るべき3つのポイント」について、実務に即して分かりやすく解説します。
そもそも、なぜストレスチェックを行うのか?
ストレスチェック制度は、労働安全衛生法に基づき、従業員50人以上の事業場に義務付けられています。その最大の目的は、一言で言えば**「メンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)」**です。
「うつ病を見つける検査」ではありません
よく誤解されがちですが、ストレスチェックは「うつ病などの精神疾患を発見するための検査」ではありません。 自身のストレス状態に気づいていない従業員に「気づき」を促し、セルフケア(自己対処)を行ってもらうこと。そして、集団ごとのデータを分析して「職場環境の改善」につなげ、ストレスの原因そのものを減らすことが目的です。
企業にとっての「リスク」と「メリット」
もし、高ストレス状態の従業員を放置し、過重労働やハラスメントなどが原因でメンタルヘルス不調が発生した場合、企業は以下のような深刻なリスクを負うことになります。
- 安全配慮義務違反のリスク 企業には、従業員が安全・健康に働けるよう配慮する義務があります。不調の兆候を把握できる機会(ストレスチェック)があったのに対処しなかった場合、法的責任を問われる可能性があります。
- 生産性の低下(プレゼンティーズム) 欠勤には至らなくとも、ストレスによって集中力や判断力が低下し、業務パフォーマンスが落ちている状態を「プレゼンティーズム」と呼びます。これは目に見えない莫大なコスト損失となります。
- 離職の連鎖 職場環境に問題がある場合、一人の休職だけでなく、周囲の従業員への負担増から、離職の連鎖(ドミノ倒し)が起こる危険性があります。
逆に言えば、ストレスチェックを適切に運用することは、これらのリスクを回避し、「従業員がイキイキと働ける、生産性の高い組織」を作るための投資となるのです。
企業が運用で守るべき3つのポイント
では、具体的に企業は何を重視して運用すべきなのでしょうか。実務において特に重要な3つのポイントを解説します。
① 高ストレス者への「医師による面接指導」を確実に実施する
ストレスチェックの結果、「高ストレス者」と判定された従業員から申し出があった場合、企業は医師による面接指導を実施する義務があります。
ここで重要なのは、**「申し出やすい環境づくり」**です。 多くの従業員は「手を挙げたら評価に響くのではないか」「人事に知られたくない」という不安を持っています。 そのため、以下の対策が不可欠です。
- 不利益取扱いの禁止を明示する: 面接を申し出たことを理由に、解雇や不当な配置転換を行わないことを社内規定で定め、周知する。
- 申し込み窓口の工夫: 上司を経由せず、人事等の担当窓口や外部機関へ直接申し込めるフローを作る。
面接指導は、不調が重篤化する前の「最後の砦」です。産業医が医学的な見地から就業上の措置(残業制限や配置転換など)を意見することで、休職という最悪の事態を防ぐことができます。
② 「集団分析」を職場環境改善につなげる
個人の結果はプライバシー保護の観点から慎重に扱う必要がありますが、課や部ごとのデータを集計した**「集団分析」**は、企業の裁量で活用できる貴重なデータです。
「どの部署が高ストレスか」を特定するだけでは不十分です。「仕事の量的負担が多いのか」「上司や同僚の支援が少ないのか」といったストレス要因の内訳を見ることが重要です。
- 仕事の量が多い場合: 業務フローの見直し、人員配置の最適化、ノー残業デーの徹底など。
- 周囲の支援が少ない場合: コミュニケーション機会の創出、管理職向けのマネジメント研修、1on1ミーティングの導入など。
集団分析の結果を現場の管理職(ラインケアの責任者)にフィードバックし、具体的なアクションプランに落とし込むことこそが、制度の肝と言えます。
③ プライバシー保護と情報の取り扱いを徹底する
ストレスチェックの結果は、機微な個人情報です。本人の同意なく、検査結果を会社側(人事権を持つ者)が取得することは法律で禁止されています。
- 実施事務従事者の限定: 結果を扱える担当者を明確に決め、それ以外の社員が触れられないようにする。
- データの保管: 紙媒体であれば鍵のかかるキャビネット、データであればアクセス権限を厳格に管理する。
「会社に筒抜けになっているのではないか」という不信感は、正直な回答を阻害し、チェック自体の形骸化を招きます。「情報は守られている」という安心感を醸成することが、正確な把握への第一歩です。
産業医がサポートできること
ストレスチェック制度を成功させるためには、産業医との連携が欠かせません。私たち産業医は、単に面接を行うだけでなく、以下のようなサポートが可能です。
- 就業上の措置に関する意見書の作成 面接指導の結果に基づき、医学的見地から「今の働き方のままで良いか」「残業禁止などの配慮が必要か」を具体的に企業へ助言します。これにより、企業は安全配慮義務を果たすことができます。
- 職場環境改善へのコンサルティング 集団分析の結果を読み解き、「この部署は長時間労働と対人関係のストレスが重なっているためリスクが高い」といった専門的な分析を行います。その上で、衛生委員会などを通じて、具体的な改善策を提案します。
- 管理職・従業員向け教育(研修) 「高ストレス者への接し方が分からない」という管理職向けに、ラインケア研修を行ったり、従業員向けにセルフケア研修を行ったりすることで、組織全体のヘルスリテラシーを向上させます。
おわりに:法令遵守のその先へ
ストレスチェックは、年に一度の「健康診断」の心バージョンです。 身体の健康診断で異常値が出たら再検査や生活習慣の改善をするように、心の健康診断でも「事後措置」と「環境改善」が何より重要です。
形式的な実施で終わらせず、**「働く人のSOSを早期にキャッチし、組織をより良くするチャンス」**と捉えてみてください。 従業員が心身ともに健康で働ける環境は、結果として企業の持続的な成長と利益につながります。
まずは今年の実施結果を改めて見直し、「集団分析の結果を現場にフィードバックできているか?」という点から確認してみてはいかがでしょうか。
【企業がすぐ着手できる3つのアクション】
記事をお読みいただきありがとうございます。まずは以下の3点から始めてみましょう。
- 実施規定の再確認と周知 「面接指導を申し出ても評価に影響しない」ことを改めて全社員へメッセージとして発信する。
- 集団分析結果と現場の照らし合わせ 高ストレス判定が出た部署の管理職と人事で話し合う場を設け、「実際の残業時間」や「人員の過不足」などの事実確認を行う。
- 産業医との定例ミーティングの議題に設定 次回の産業医訪問時に「今回のストレスチェック結果から見える当社の課題は何か?」と率直に意見を求める。
「ストレスチェックを実施したものの、結果をどう改善に活かせばいいか分からない」 「高ストレス者への対応に不安がある」
このようなお悩みをお持ちの企業様は、ぜひ一度当事務所までご相談ください。 貴社の課題に合わせて、法令遵守にとどまらない、実効性のあるメンタルヘルス対策をご提案いたします。
産業医 / 健康経営エキスパートアドバイザー / 健康経営専門医 松田悠司
