健康経営優良法人とは?企業が実践すべき具体的なステップを解説

健康経営優良法人とは?企業が実践すべき具体的なステップを解説

従業員の健康は、企業の成長に欠かせない重要な要素です。

健康経営優良法人認定制度は、その重要性を認識し、戦略的に取り組む企業を国が公式に認定する制度です。認定取得によって企業イメージ向上、優秀な人材確保、生産性向上、さらには融資優遇など、多くのメリットが期待できます。

本記事では、健康経営優良法人を目指すための具体的なステップを紹介します。

健康経営優良法人とは?

「健康経営」とは、従業員の健康増進を経営的な視点で捉え、戦略的に取り組むことを指します。従業員の健康は企業の成長にとって重要な要素であり、健康経営はもはや一部の先進的な企業だけのものではなく、すべての企業にとって必須の取り組みになりつつあります。

健康経営優良法人認定制度は、健康経営に積極的に取り組み、一定の基準を満たした企業を国が公式に認定する制度です。認定を受けることで、企業イメージの向上、優秀な人材の確保、生産性の向上など、様々なメリットが期待できます。

この制度は、健康経営に取り組む企業の「見える化」を促進し、日本全体の健康水準の向上と経済活性化を図ることを目的としています。健康経営は、従業員だけでなく、企業、そして社会全体にとってwin-win-winの関係を築くための重要な戦略なのです。

健康経営優良法人認定制度には、「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」の2つの部門があります。それぞれについて説明します。

大規模法人部門

大規模法人部門は、従業員数や資本金規模が一定以上の、比較的大きな企業を対象とした認定制度です。

具体的には、以下のような基準が設けられています。

【従業員数】

  • 小売業:51人以上
  • 卸売業・サービス業:101人以上
  • 製造業その他:301人以上

これらの企業は、健康経営に関する様々な項目において高い水準を満たす必要があります。

例えば、健康に関する方針を明確に策定し、社内外に発信しているか、従業員の健康状態を定期的に把握するための仕組みを構築しているか、健康増進のための具体的な計画を立て、実行しているか、労働安全衛生法などの関連法規を遵守しているか、といった点です。

大規模法人部門では、必須項目が設定されており、すべてクリアすることが認定の必須条件となります。加えて、選択項目も用意されており、企業の特性や健康課題に合わせて適切な取り組みを選択し、実施することが求められます。

まるで健康経営の総合評価を受けるようなものです。企業は、自社の状況を的確に把握し、戦略的に健康経営を推進していく必要があります。

中小規模法人部門

中小規模法人部門は、従業員数や資本金規模が比較的小さな企業を対象とした認定制度です。

従業員数と資本金または出資金額が以下のいずれかに該当することが条件となります。

【従業員数】

  • 小売業:50人以下
  • 卸売業・サービス業:100人以下
  • 製造業その他:300人以下

【資本金または出資金額】

  • 小売業・サービス業:5,000万円以下
  • 卸売業:1億円以下
  • 製造業その他:3億円以下

中小規模法人部門においても、健康経営への取り組み状況が厳しく審査されます。

中小企業は、大企業に比べて経営資源が限られている場合が多いですが、従業員一人ひとりの健康状態が企業全体のパフォーマンスに大きな影響を与えるため、健康経営の重要性は決して小さくありません。むしろ、少人数だからこそ、一人ひとりの健康状態の変化が業績に直結しやすく、健康経営の効果を実感しやすいと言えるでしょう。

中小規模法人部門では、まず7つの必須項目をクリアすることが求められます。さらに、中小規模法人部門の上位500法人に与えられる「ブライト500」の認定を受けるには、より高度な基準を満たす必要があります。

例えば、従業員のメンタルヘルス対策やワークライフバランスの推進など、より多角的な視点からの取り組みが求められます。これは、健康経営のレベルをさらに高め、より健康的な職場環境を構築するためのものです。

また、2024年度から新たに、中規模法人の上位501から1500位を「ネクストブライト1000」として認定することが始まりました。

従業員数や資本金・出資金額の詳細は、経済産業省が公開しているこちらの資料でも確認できます。

健康経営優良法人認定の認定要件

健康経営に取り組むことは、従業員の健康増進だけでなく、企業イメージの向上、優秀な人材の確保、生産性の向上など、企業にとっても大きなメリットをもたらします。

健康経営優良法人の大規模法人部門と中小規模法人部門には、それぞれに認定要件が定められています。

大規模法人部門

健康経営優良法人2025(大規模法人部門)認定要件 経済産業省

中小規模法人部門

健康経営優良法人2025(中小規模法人部門)認定要件 経済産業省

健康経営優良法人の認定要件は、大きく以下の5つの項目に分類されます。

  • 経営理念・方針
  • 組織体制
  • 制度・施策実行
  • 評価・改善
  • 法令遵守・リスクマネジメント

これらの項目は、健康経営の基本的な考え方から具体的な施策の実施状況、そして法令遵守まで、多岐にわたります。

経営理念・方針

これは健康経営に対する企業の姿勢を示すもので、健康経営に関する方針を明確に策定し、社内外に発信しているかが評価されます。例えば、「策定した健康経営推進方針について取締役会で承認を得ている」「健康経営の実施により期待する効果につながるKPIを(中期)経営計画に組み込んでいる」などといった取り組みが挙げられます。

組織体制

健康経営を推進するための組織体制が適切に整備されているかが評価されます。例えば、「自社の従業員の健康課題について健康経営推進担当者と協議している」「産業医または保健師が健康経営推進担当者と共に健康経営施策を推進している」「各職場での取り組みにおける課題や好事例を定期的に共有する場を設けている」などといった点がチェックされます。

制度・施策実行

「メールや社内通達等により全従業員に受診勧奨を行っている」「受診時の就業時間認定や有給の特別休暇付与を行っている」など、具体的な施策の実施状況が評価されます。この項目は、必須項目と選択項目に分かれており、必須項目はすべてクリアする必要があります。選択項目は、企業の特性や健康課題に合わせて適切な取り組みを選択し、実施することが求められます。

評価・改善

健康経営に関する取り組みの効果を検証し、継続的に改善していくための仕組みが構築されているかが評価されます。PDCAサイクルを回すように、現状を分析し、改善策を検討し、実行し、そしてその効果を検証するというプロセスを繰り返すことが重要です。具体的には、「従業員の生産性や組織の活性度等についてどのような評価指標を設定しているのか」「健康経営の実施についてどのように効果検証を行っているのか」などが含まれます。

法令遵守・リスクマネジメント

定期健診を実施していることや50人以上の事業場においてストレスチェックを実施していることなど、労働安全衛生法などの関連法規を遵守しているか、健康経営に関するリスクを適切に管理しているかが評価されます。法令遵守は、健康経営を持続的に推進していく上で不可欠な要素です。

健康経営優良法人を目指すための具体的なステップ

健康経営優良法人になるためのステップを詳しく見ていきましょう。詳細はポータルサイトをご覧ください。(https://kenko-keiei.jp/hajimeyo/

健康宣言事業に参加

大規模法人部門への申請には、健康宣言事業の参加は必須ではありませんが、中小規模法人部門で認定を受けるためには、まず「健康宣言」をする必要があります。

健康宣言とは、健康経営に取り組む決意を表明し、従業員の健康づくりに注力することを公式に宣言することです。中小規模法人部門については、保険者が健康宣言の取り組みを実施していない場合は申請ができません。

健康宣言は、協会けんぽや健康保険組合といった保険者が実施しています。自社が加入している保険者に問い合わせ、健康宣言の取り組みがあるかを確認しましょう。協会けんぽに加入している企業であれば、「健康企業宣言」という制度を利用できます。

健康経営を実践

健康宣言をした後は、実際に健康経営に取り組む段階に入ります。健康経営とは、従業員の健康に配慮することで、企業の生産性や業績を向上させる取り組みです。具体的な取り組みは企業の規模や業種によって異なりますが、具体的にどのような取り組みを行えば良いかは健康経営度調査のサンプル(https://kenko-keiei.jp/application/sample/)が参考になります。認定要件を逆算的に捉えていくことができます。

経済産業省が実施する「健康経営度調査」では、健康経営の取り組み状況や成果を把握するための設問が用意されており、企業の規模や業種に応じて適切な取り組みを選択することができます。自社の状況を分析し、優先順位の高い取り組みから着手していくことが重要です。

申請

健康経営を実践し、一定の成果が得られたら、保険者との連名により健康経営優良法人の認定申請を行います。申請書の作成方法については経済産業省の資料が参考になります。

大規模法人部門の場合は、健康経営度調査に回答し、その結果に基づいて申請書類を作成します。中小規模法人部門の場合は、健康保険組合に申請書類を提出します。

認定

申請後、健康経営優良法人の認定委員会による審査を経て、認定結果がメールで通知されます。審査では、健康経営の取り組み状況や成果、法令遵守などが評価されます。日本健康会議によって認定されると、健康経営優良法人として公式に認められ、企業イメージの向上、人材確保、融資優遇などのメリットが得られます。

健康経営優良法人の認定は、ゴールではなく、スタートです。認定後も継続的に健康経営に取り組み、従業員の健康増進と企業の成長を目指していくことが重要です。

まとめ

健康経営優良法人。聞き慣れない言葉かもしれませんが、これは従業員の健康を経営的視点から戦略的に考え、実践している企業に与えられる称号です。まるで健康経営に取り組む企業の証のようなものですね。

この認定を受けるメリットは、企業イメージの向上、優秀な人材の確保、生産性の向上、そして融資の優遇など多岐に渡ります。健康経営優良法人を目指して準備を進めましょう。

産業医 / 健康経営アドバイザー 松田悠司

この記事を書いた人