職場の安全を守る!熱中症予防と万が一の応急処置ガイド

職場の安全を守る!熱中症予防と万が一の応急処置ガイド

熱中症は、真夏の炎天下だけでなく、屋内でも、春先から秋口まで、一年を通して起こりうる身近な脅威です。特に、心不全などの持病を持つ方は、熱中症による死亡リスクが上昇するとの報告も。

暑さ対策を怠ると、命に関わる重篤な症状を引き起こすだけでなく、後遺症が残る可能性も無視できません。 水分と塩分のこまめな補給、服装の工夫、職場環境の整備など、今すぐできる対策から始め、熱中症から身を守りましょう。

この機会に、熱中症に関する誤解を解き、正しい知識を身につけて、安全で健康な毎日を送りませんか?

職場でできる熱中症の予防策5選

熱中症は、夏の暑い時期だけでなく、梅雨の時期や、春や秋にも起こる可能性があります。特に、職場では、作業内容や環境によっては熱中症のリスクが高まる場合があります。暑さに慣れない時期は特に注意が必要です。こまめな水分補給や休憩、職場環境の整備など、できることから対策を始めましょう。

極端な高温日には、心血管疾患による死亡リスクが上昇することが明らかになっています。特に心不全の患者さんは、高温による悪影響を受けやすい傾向があるため、職場での熱中症対策は重要です。

ここでは、職場でできる熱中症の予防策を5つご紹介します。

  1. 水分・塩分をこまめに補給する
  2. 服装を工夫する
  3. 職場環境を整える
  4. 作業スケジュールを調整する
  5. 熱中症対策グッズを活用する

1.  水分・塩分をこまめに補給する

熱中症予防の基本は、こまめな水分・塩分補給です。「のどが渇いた」と感じる前に、こまめに水分を摂りましょう。のどが渇いたと感じる頃には、すでに体内の水分が不足し、脱水が始まっている可能性があります。

人間の体は、体重の約60%が水分でできており、この水分バランスが崩れると、体温調節機能や循環機能に支障をきたし、熱中症のリスクが高まります。

屋外で作業をする場合は、汗で失われた塩分も補給する必要があります。汗には水分だけでなく、ナトリウムなどの電解質も含まれています。これらの電解質が不足すると、体内の水分バランスが崩れ、熱中症になりやすくなります。

スポーツドリンクや経口補水液、塩飴などを活用して、水分と塩分をバランスよく補給しましょう。水だけを大量に飲むと、体内の電解質濃度が低下し、水中毒を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。水中毒は、頭痛、吐き気、嘔吐、意識障害などの症状を引き起こす危険な状態です。

2. 服装を工夫する(通気性の良い素材、明るい色など)

熱中症予防には、服装も重要です。通気性の良い素材の服を選び、汗を素早く蒸発させるようにしましょう。綿や麻などの天然素材は、吸湿性・通気性に優れているためおすすめです。

色は明るいものを選びましょう。白い服は太陽光を反射し、熱の吸収を抑える効果があります。一方、黒などの暗い色の服は熱を吸収しやすいため、体温が上昇しやすくなります。炎天下での作業時には、体感温度が大きく変わるため、明るい色の服を選ぶことで熱中症のリスクを軽減できます。

3. 職場環境を整える(エアコン、扇風機、換気など)

職場環境を整えることも、熱中症予防に効果的です。エアコンや扇風機を使って室温を調整し、こまめに換気を行いましょう。温度計を設置して、室温の変化を常に把握することも大切です。

厚生労働省では、WBGT(暑さ指数)に基づいた熱中症予防対策の指針を公表しています。WBGTは、気温、湿度、輻射熱を考慮した指標であり、職場環境における熱中症リスクを評価する上で重要な指標となります。WBGT値に応じて、適切な休憩時間や作業内容の調整を行うことが推奨されています。

直射日光が当たる場合は、カーテンやブラインドなどで日差しを遮りましょう。窓の外に緑を植えるのも効果的です。植物は蒸散作用によって周囲の温度を下げ、日陰を作る効果があります。

4. 作業スケジュールを調整する(休憩時間、屋外作業の時間を避けるなど)

作業スケジュールを調整することも、熱中症予防に重要です。気温の高い時間帯の屋外作業は避け、涼しい時間帯に行うようにしましょう。また、こまめに休憩を取り、体を休ませることも大切です。

特に、午前10時から午後2時までは、気温が最も高くなる時間帯です。この時間帯の屋外作業は極力避け、屋内での作業に切り替える、または休憩時間を長めにとるなどの工夫が必要です。

作業中にも、意識的に水分補給や休憩を促すようにしましょう。休憩時間や水分補給の時間を決めておくのも有効です。例えば、1時間ごとに5分間の休憩時間を設け、水分補給を促すなどの対策が考えられます。

5. 熱中症対策グッズを活用する(冷却タオル、冷却スプレー、経口補水液など)

熱中症対策グッズを活用するのも良いでしょう。冷却タオルや冷却スプレーは、体を冷やすのに役立ちます。冷却タオルは、水に濡らして絞るだけで簡単に使用でき、首に巻いたり、頭に被ったりすることで、気化熱を利用して体温を下げる効果があります。冷却スプレーは、直接肌に噴射することで、冷却効果が得られます。

経口補水液は、水分と塩分を同時に補給できるので、特に屋外作業をする際に便利です。軽度から中等度の脱水状態の改善に有効です。

保冷剤や氷なども活用できます。首や脇の下、足の付け根などの太い血管が通っている部分を冷やすと、効率的に体温を下げることができます。

これらの熱中症対策を職場全体で共有し、実践することで、熱中症のリスクを低減し、安全な職場環境を構築することができるでしょう。

熱中症の症状と応急処置

真夏の炎天下で激しい運動をしている時だけでなく、日常生活の中でも熱中症は起こりえます。湿度が高い日や、急に暑くなった日など、一年を通して注意が必要です。

屋内でも屋外でも起こりうる身近な危険だからこそ、正しい知識を身につけて、予防と対策をしっかり行いましょう。もしもの時のために、症状や応急処置の方法を理解しておくことも重要です。

熱中症の初期症状を見つける(めまい、立ちくらみ、筋肉痛、大量の発汗など)

熱中症は、初期症状を見つけることが非常に重要です。初期症状は風邪の症状と似ていることが多く、見過ごしやすいので注意が必要です。

例えば、めまいや立ちくらみは、脳への血流が一時的に不足することで起こります。暑い環境では、体の表面に血液が集まり、体温を下げようとします。そのため、脳への血流量が減少し、めまいや立ちくらみが起こりやすくなります。

また、筋肉痛やこむら返りは、汗とともに体内の塩分(ナトリウムなど)が失われることで、筋肉の働きが阻害されることが原因です。大量の発汗も、体温調節のために起こる症状ですが、脱水を招き、熱中症の悪化につながる可能性があります。

その他、体がだるい、頭が重い、頭痛、吐き気、気分が悪い、いつもより汗をかきにくい、皮膚が赤く熱くなっているなども初期症状として現れることがあります。

これらの症状に気づいたら、熱中症の初期段階である可能性を疑い、すぐに涼しい場所へ移動し、水分と塩分を補給することが大切です。

熱中症の重症度別の症状を理解する(中等度:頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感など、重症:意識障害、痙攣、高体温など)

熱中症は、症状の重さによって、Ⅰ度(軽症)、Ⅱ度(中等症)、Ⅲ度(重症)の3つの段階に分けられます。

Ⅰ度(軽症)では、めまい、立ちくらみ、筋肉痛、大量の発汗などが現れます。この段階では、意識ははっきりしていますが、すでに体の機能に異常が生じている状態です。

Ⅱ度(中等症)になると、頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、集中力の低下、判断力の低下などが現れます。日常生活に支障が出るほどの症状が現れるため、周囲の助けが必要となる場合もあります。

Ⅲ度(重症)では、意識障害、痙攣、高体温(40℃以上)などが現れます。命に関わる危険な状態であり、緊急の医療処置が必要です。特に、心不全などの持病がある方は、熱中症による死亡リスクがさらに高まるという研究結果も報告されています。

応急処置の手順(涼しい場所に移動、衣服を緩め、水分・塩分補給、身体を冷やすなど)

熱中症の疑いがある場合は、速やかに以下の応急処置を行いましょう。

  1. 涼しい場所へ移動する:エアコンの効いた室内や、風通しの良い日陰などに移動させ、安静を保ちます。
  2. 衣服を緩める:ネクタイやベルトなどを緩め、体を締め付けるものを取り除き、通気を良くします。
  3. 水分・塩分補給:意識がはっきりしている場合は、経口補水液やスポーツドリンクなどを飲ませます。水だけでなく、塩分も補給することが重要です。意識がない場合は、無理に飲ませないようにしてください。
  4. 身体を冷やす:首、脇の下、足の付け根などの太い血管が通っている部分を、冷やしたタオルや保冷剤などで冷やします。体温を下げる効果が期待できます。

医療機関への連絡(症状が改善しない場合、意識障害がある場合など)

応急処置後も症状が改善しない場合や、意識障害がある場合は、すぐに医療機関に連絡し、指示を仰ぎます。必要に応じて、ためらわずに救急車を呼ぶことも重要です。

救急搬送が必要なケース

以下の場合は、ためらわずに救急車を呼びましょう。

  • 意識がない、またはもうろうとしている
  • 痙攣している
  • 体温が高い
  • 呼吸がおかしい
  • 呼びかけに反応しない

迅速な対応が、熱中症の重症化を防ぐ鍵となります。

熱中症に関するよくある誤解と正しい知識

熱中症は、夏の暑い時期に起こるイメージが強いですが、実はいくつかの誤解があります。正しい知識を身につけることで、より効果的に熱中症を予防し、いざという時に適切な対応ができます。

ご自身の生活習慣を振り返りながら、一緒に確認していきましょう。

熱中症は屋外だけで起こるわけではない

熱中症は、屋外で強い日差しを浴びている時に起こるものと思っていませんか?実は、屋外だけでなく、高温多湿の室内でも発生します。

例えば、風通しの悪い場所や、エアコンが効いていない室内、キッチンなど火を使う場所では特に注意が必要です。私は、家庭での熱中症の症例も数多く診てきました。締め切った室内で長時間家事をしているうちに、いつの間にか熱中症で倒れていた、というケースも珍しくありません。

屋内における熱中症のリスクも指摘されています。職場だけでなく、自宅でも熱中症のリスクがあることを意識し、予防することが大切です。

若い人でも熱中症になる

「熱中症は、高齢者や小さな子どもがなるもの」と考えている方もいるかもしれません。しかし、若い人でも、激しい運動や作業を長時間続けることで、熱中症になる可能性は十分にあります。特に、普段から運動をしていない人が急に激しい運動を始めると、身体が暑さに慣れていないため、熱中症のリスクがさらに高まります。

また、無理なダイエットや睡眠不足なども、熱中症のリスクを高める要因となります。若いから大丈夫、と油断せずに、こまめな水分補給や休憩を心がけましょう。

エアコンの効いた室内では熱中症にならないわけではない

エアコンの効いた涼しい室内では、熱中症にならないと思っていませんか?確かに、エアコンは室温を下げ、熱中症のリスクを減らす効果的な方法です。しかし、エアコンの設定温度が高すぎたり、風が直接当たらない場所にいたりすると、体温が上昇し、熱中症になる可能性があります。

また、エアコンの効いた室内に長時間いると、発汗が少ないため、体内の水分や塩分が不足しやすくなります。そのため、エアコンを使用していても、こまめな水分・塩分補給を忘れずに行いましょう。のどの渇きを感じる前に、定期的に水分を摂ることが重要です。

水分補給は水だけなく塩分も必要

熱中症対策として、水分補給は非常に重要です。しかし、水分補給は水だけでなく、塩分も必要です。大量の汗をかくと、体内の水分とともに塩分(ナトリウムなど)も失われます。水分だけを補給すると、体内の塩分濃度が薄まり、かえって脱水症状を悪化させる可能性があります。

ナトリウムは、体内の水分バランスを維持するために不可欠な電解質です。汗をかくと、ナトリウムも一緒に体外に排出されます。そのため、水分だけでなく、ナトリウムも補給する必要があります。

スポーツドリンクや経口補水液など、塩分を含んだ飲み物で水分補給をする、あるいは水と一緒に塩飴や梅干しなどを摂取することで、ナトリウムを補給できます。

熱中症は後遺症が残る場合がある

熱中症は、適切な処置を行えば、多くの場合、回復します。

しかし、重症の場合、後遺症が残る可能性があります。例えば、脳に障害が残ったり、腎機能が低下したりするケースも報告されています。後遺症の程度は、熱中症の重症度や、処置までの時間などによって異なります。

また、熱中症が原因で、心血管疾患、特に心不全の悪化につながる可能性も懸念されています。熱中症を甘く見ず、予防と早期発見、適切な応急処置を心がけましょう。

まとめ

職場での熱中症対策、きちんとできていますか? 水分・塩分補給、服装、職場環境の整備、作業スケジュールの調整、熱中症対策グッズの活用など、できることから始めて、熱中症から身を守りましょう。

熱中症は、屋外だけでなく屋内でも、また若い方でも起こりうる身近な危険です。初期症状を見逃さず、適切な応急処置を施すことが大切です。

万が一、意識障害や痙攣などの重症化した場合は、ためらわず救急車を呼びましょう。正しい知識を身につけ、安全で健康な職場環境を一緒に作りましょう。

産業医 / 健康経営アドバイザー 松田悠司

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