ストレスチェック後のフォロー|産業医の役割を解説
企業の労務管理において、重要な役割を果たすストレスチェック。その後のフォローが職場環境の改善に大きな影響を与えることをご存知でしょうか?
この記事では、ストレスチェックの基本から、産業医がどのようにフォローするかについて解説します。
産業医が担う具体的な役割を知り、ストレスチェックのフォローアップの効果を最大限に活かしましょう。
ストレスチェックとは?目的・義務
ストレスチェックは従業員のメンタルヘルスを守るための制度。職場環境の改善にもつながる重要な取り組みです。
ここでは、ストレスチェックの目的や実際に行われる内容、実施が義務付けられている事業所の条件について詳しく説明します。
ストレスチェックの理解を深め、必要な基礎知識を押さえておきましょう。
ストレスチェックの目的
ストレスチェック制度の主な目的は、「労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止すること(一次予防)」です。この制度は、労働者が抱えるストレスを早期に発見し、適切な対応を行うための仕組みとして導入されています。(出典:厚生労働省 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル)
事実、厚生労働省の調査「職場におけるメンタルヘルス対策の状況」によれば、メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の割合は年々増加傾向です。特に大規模な事業所・営業所ほど、メンタルヘルスケアに取り組んでいる割合は高くなっています。
ストレスチェックを実施すれば、労働者は自分自身のストレス状態に早期に気づくことができ、必要な対策を早めに取ることができます。
また、結果をもとに職場全体の環境を改善することも可能です。従業員一人ひとりのメンタルヘルス不調を未然に防ぐことができ、労働者の働きやすさが向上すれば、結果的に労働生産性が向上する効果にも期待できるでしょう。
ストレスチェックが求められる背景
近年、仕事において強い不安や悩み、そしてストレスを感じている労働者が増加しており、厚生労働省の調査「職場におけるメンタルヘルス対策の状況」では全労働者の半分以上が職業生活におけるストレスを抱えていると報告されています。
このような状況は、企業や組織にとっても深刻な課題です。
こうした背景から、メンタルヘルスの維持や改善に対する意識がますます高まっています。精神的な健康維持を図ることで、従業員の長期的なパフォーマンスの向上を期待できるでしょう。
ストレスチェックは、企業や組織にとって、従業員の健康管理と職場環境の改善に欠かせない取り組みです。
ストレスチェックを義務付けられる事業場
ストレスチェックの実施義務は、常時 50 人以上の労働者を使用する事業場に課されます。この場合の「労働者」には、フルタイムの正社員に限らず、パ ートタイム労働者や派遣先の派遣労働者も含まれる点は把握しておきましょう。(出典:厚生労働省 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル)
一方、常時50人未満の労働者を使用する事業場については、ストレスチェック制度は法的義務ではなく努力義務です。制度を円滑に推進するために、国からは小規模事業場に対して様々な支援が提供されています。
具体的には、産業保健総合支援センターが個別に事業場を訪問、ストレスチェック導入に関するアドバイスやサポートを行っています。また、ストレスチェック後のフォローとして、必要な面接指導を地域産業保健センターに依頼することも可能です。
さらに、労働者健康安全機構からの支援として、ストレスチェックの実施やその後の面接指導にかかる費用の一部が助成される仕組みも整えられています。
このような支援を活用することで、企業はより効果的にストレスチェック制度の導入・運用ができるでしょう。
ストレスチェックの実施からフォローまで
ストレスチェックは実施するだけでなく、その後のフォローが重要です。大まかな流れは、以下の通りです。
- ストレスチェックを実施する
- 産業医面談でフォローする
- 労働基準監督署に届け出る
このセクションでは、ストレスチェックの実施手順、その後のフォローアップまでの流れを詳しく解説します。
1. ストレスチェックを実施する
ストレスチェックを実施する際、まず事業場内の衛生委員会で審議されます。この審議で議論されるのは、対象者や実施手順、ストレスチェック後のフォロー体制などです。この過程で、高ストレスと判定された従業員に対して必要なフォローが適切に行われるか確認されます。
特に重要なのが、労働者の利益を守ることです。高ストレス者として判定された労働者が、面接指導の申し出を行った際に不利益を被らない様にしましょう。
その後、従業員に対してオンラインや紙媒体でストレスチェックを実施します。厚生労働省から、事業者がストレスチェックを行えるプログラムが無料で提供されています。これにより、企業は簡便にストレスチェックを実施が可能です。
ストレスチェックの結果は、個々の従業員に対して直接通知されます。事業者は本人の許可なしにその内容を確認することはできません。
従業員が安心してストレスチェックを受けられる環境が整っていることは、ストレス管理や職場環境の改善に大きく寄与します。
産業医面談でフォローする
高ストレスと判定された従業員は、希望すれば産業医との面談を実施できます。この面談の目的は、従業員のメンタルヘルスに関する問題を早期に発見し、適切なフォローアップを行うことです。
産業医によるストレスチェックは、以下の流れで進められます。
- ストレス要因や日常的な仕事の状況、心理的負担の大きさなどの聴取
- ストレスを軽減させるための具体的なアドバイス
- より専門的な対応が必要な場合は、専門医療機関への受診を推奨
まず、産業医は従業員のストレス要因や日常的な仕事の状況、心理的負担の大きさなどを詳細に聴取します。その上で、産業医は従業員に対して適切なアドバイスやサポートを行い、ストレスを軽減するための具体的な改善策を提案するという流れです。
しかし面談の結果次第では、より専門的な対応が必要と判断され、専門医療機関への受診を勧めるケースもあります。ストレスチェック後のフォローで産業医と連携すれば、従業員の健康状態をより深く把握し、長期的な対策を取ることが可能です。
なお、産業医は従業員のプライバシーを保護するために守秘義務を負っており、面談内容が外部に漏れることはありません。守秘義務を徹底しているので、従業員は安心して産業医に相談することができます。
職場での具体的な対応策の提案も産業医の指導のもとで進められるため、従業員にとって安心感のある制度といえるでしょう。
労働基準監督署に届け出る
ストレスチェックを実施した場合、その結果を労働基準監督署に報告する義務があります。事業者は結果をまとめ、「労働安全衛生法に基づくストレスチェックの実施結果報告書」を作成しなければなりません。
報告書は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。この報告書には、ストレスチェックの実施状況、結果の概要、そして面接指導が行われたかどうかの実施状況など、詳細な内容を記録する必要があります。この情報を正確に記載し、期限内に提出してください。
提出の期限は、ストレスチェックの実施日から翌年の3月31日までです。事業者は、この期限を守り、遅延なく報告を行うことが法的に義務付けられています。
提出が遅れたり、報告内容に虚偽の記載があった場合、事業者に対して罰則が科される可能性があります。罰則には、法律に基づいた厳しい制裁措置が含まれることがあるため、注意が必要です。
なにより、チェック忘れや提出遅れは、従業員が「この会社に大切にされていないのでは」と感じさせる原因になりかねません。従業員が安心して働ける職場環境を築くためにも、産業医と連携してスムーズで効果的なストレスチェックを実施しましょう。
ストレスチェック後フォロー|産業医に依頼するメリット
ストレスチェック後に産業医によるフォローを依頼すると、職場の健康管理がより専門的に行われます。労働者のメンタルヘルス向上だけでなく、企業の健全な運営にも大きく寄与するでしょう。
以下では、具体的なメリットについて詳しく説明します。
- 生産性の向上
- 創造性の向上
- 企業イメージの向上
生産性の向上
産業医による専門的なフォローアップは、企業の生産性を向上させます。
従業員がストレスを適切に管理できるようになると、モチベーションや日々の業務に対する集中力の向上が期待できます。結果として、業務の効率が向上し、個々の生産性が上がるのです。
さらに、ストレスが原因での欠勤や長期的な休職、離職といった問題も減少します。メンタルヘルス不調が早期に改善されることで、従業員が職場に定着しやすくなり、人材の流出を防ぐことができます。つまり、安定して人材を確保できるのです。
最終的に、こうした改善が積み重なることで、企業全体の生産性が大きく向上します。従業員が健やかな状態で働ける環境が整い、業務の効率化が進み、組織全体としてのパフォーマンスが改善するでしょう。
産業医のフォローアップは短期的な健康改善にとどまらず、企業の長期的な成長にも大きな影響を与える重要な要素です。
創造性の向上
従業員のメンタルヘルスが安定している職場では、創造性やイノベーションが促進されやすくなります。ストレスが少なく、安心して働ける環境は自由なアイデアを生み出すために不可欠です。
産業医が従業員の面談を通じてストレス要因を把握し、適切な改善策を提供することで、個々の不安を軽減し、安心感を高めます。こうしたサポートがあることで、従業員は心の余裕を持って業務に取り組むことができ、結果として新しい視点からの提案が生まれやすくなるのです。
さらに、産業医はメンタルヘルスケアの専門的なアドバイスを通じて、チーム内のコミュニケーションや協力体制の向上もサポートします。これにより、従業員同士が信頼関係を築きやすくなり、プロジェクトに対する協力姿勢が強まります。
結果として、企業の競争力を高める新しい製品やサービスの開発にも繋がるでしょう。
企業イメージの向上
ストレスチェック後のフォローを産業医に依頼することで、従業員の健康管理に積極的に取り組む企業としてのイメージが定着します。
メンタルヘルスを重視する姿勢は従業員に安心感を与え、社会的評価も高めます。また、働きやすい職場環境を提供していると見なされ、優秀な人材の採用や定着率の向上にもつながるでしょう。
結果として社外の信頼を得やすくなり、取引やパートナーシップの面でも有利になります。
ストレスチェック後の産業医フォローで職場の労働環境を改善しよう
ストレスチェックは労働者のメンタルヘルス不調を予防し、職場環境を改善するための重要な制度です。
常時50人以上の事業場では義務、49人未満では努力義務とされていますが、「生産性向上」「創造性向上」「企業イメージ向上」など、数多くのメリットがあります。
また、産業医と連携することで、従業員のストレス要因を深く理解し、具体的な改善策を提供でき、モチベーション向上につながります。今こそ産業医のサポートを活用し、安心して働ける職場環境を目指しましょう。
産業医 / 健康経営アドバイザー 松田悠司