休職者との適切なコミュニケーション方法とは?法的注意点とベストプラクティスを徹底解説

休職者との適切なコミュニケーション方法とは?法的注意点とベストプラクティスを徹底解説

企業が従業員を休職扱いとするのは、主に「病気療養」「育児・介護」「留学や資格取得のための休暇」など、さまざまな理由が考えられます。なかでも近年特に増加しているのが、メンタルヘルス不調による休職です。休職者の状態や状況に応じて、企業としてどのように対応すべきか迷うケースも少なくありません。

休職中は、業務から離れて療養に専念する期間となるため、本人とのコミュニケーションのあり方が難しい問題となることがあります。たとえば、連絡を頻繁に取りすぎるとプライバシー侵害ハラスメントとみなされるリスクがある一方、まったく連絡を取らないでいると、企業側の方針や状況が伝わらずに、復職意欲の低下や休職の長期化を招いてしまう可能性もあります。

本記事では、法的観点を踏まえつつ、適切な連絡頻度や方法を把握し、円滑な復職を支援するためのポイントを解説します。産業保健(産業医)の視点から、企業として知っておくべき注意点とベストプラクティスをまとめました。休職対応に不安を抱える管理職や人事担当者の方々にとって、実践的に役立つ内容となるよう、できるだけわかりやすくご紹介します。

休職者とのコミュニケーションが重要な理由

2-1. メンタルヘルスと企業リスク

厚生労働省の調査や企業実態を見ると、休職の大半がうつ病などのメンタルヘルス不調であることがわかっています。こうした従業員が長期休職に入ると、企業にとっては人手不足による業務負荷増やコスト増といった問題が生じやすくなります。また、休職者に対する不適切な対応が行われると、それ自体がハラスメントとみなされ、企業が訴訟リスクを負う可能性もあります。

特に、メンタルヘルス不調は外見からは分かりにくいことも多いため、上司や同僚が「無理をさせていないつもり」でも、本人にとっては負担感が大きい場合もあります。こうした認識の差から、本人が「圧力をかけられている」と感じてしまい、ハラスメント問題に発展するケースは少なくありません。企業としては、従業員の休職中にどのようなサポートと連絡方法を取るかを明確にする必要があります。

2-2. 効果的なフォローがもたらすメリット

適切なコミュニケーションを図りながら休職者を支援すると、本人が安心して療養し、早期に回復できる可能性が高まります。休職期間の経過に応じて丁寧にフォローしておくことで、職場復帰がスムーズになり、定着率の向上早期戦力化につながります。

また、企業が休職者対応に真摯に向き合う姿勢を社内外に示すことは、従業員のエンゲージメント向上企業イメージの向上にも寄与します。昨今は、労働環境に配慮しているかどうかが就職先を選ぶ基準の一つとなっており、産業医の活用や休職者への丁寧なアプローチは、優秀な人材の確保にも役立つ要素だといえるでしょう。

休職中の連絡頻度・対応のベストプラクティス

3-1. 適度な連絡頻度の目安

一概に「月○回がベスト」と断定することは難しいのですが、実務的には月1回程度の定期連絡を基本とする企業が多いようです。これは、あまりに頻繁に連絡をすると心理的なプレッシャーを与えやすい反面、まったく連絡がないと「会社から見放された」と感じさせてしまう恐れがあるためです。

ただし、従業員の体調や休職理由によっては、もっとこまめな連絡が必要な場合や、逆に数カ月に1回程度で十分な場合もあります。重要なのは、診断書の内容や主治医の意見、そして本人の状態に合わせて柔軟に調整することです。産業医を交えながら、無理のない範囲で連絡頻度を検討していきましょう。

3-2. 連絡方法とタイミングの注意点

連絡ツールには電話、メール、LINE、ビデオ通話など、さまざまな選択肢があります。休職者の状態や希望するコミュニケーション手段を考慮しつつ、目的を明確にして必要最低限のやりとりを心がけるのがポイントです。

  • 電話
    リアルタイムで会話できるメリットがありますが、相手の都合を考慮せずにかけると負担になりやすいです。事前に「○時頃に連絡しても大丈夫ですか」と確認するなどの配慮をしましょう。
  • メール・LINE
    テキストベースで情報を残せるため、要件を簡潔にまとめることで相手も確認しやすくなります。メンタルヘルス不調の方はレスポンスに時間を要する場合もあるので、返信を急かさない姿勢が大切です。
  • ビデオ通話
    顔を見ながらコミュニケーションが取れる利点がありますが、映像があることで緊張感を高めてしまう場合もあります。本人が希望しているかどうかを事前に確認しましょう。

また、連絡する時間帯が深夜や早朝、休日などに及ぶと、心理的負担が増大するおそれがあります。業務時間内での連絡を基本とし、どうしても外せない場合は事前に了承を得るなど細心の注意を払いましょう。

3-3. 「連絡しすぎ」と「連絡しなさすぎ」のリスク

連絡しすぎのリスク:
「体調はどう?いつ戻れる?」「実は仕事が大変だから早く復帰してほしい」など、過度にプレッシャーをかけるとプライバシー侵害精神的負担の増大につながり、ハラスメント認定されるリスクがあります。

連絡しなさすぎのリスク:
一方で、ほとんど連絡がない状態では、休職者としては「会社に必要とされていないのでは」「復職の準備はどうなっているのだろう」と不安感を募らせるかもしれません。結果として復職意欲の低下や、状態の悪化による休職長期化を招く可能性があります。

企業が知るべき「休職者との適切な距離感」とは

4-1. 距離感を誤る原因

上司や同僚の「早く元気になってほしい」という善意が空回りし、逆にプレッシャーを与えてしまうケースは少なくありません。メンタルヘルス不調者への対応は、個々の症状や状況を十分に考慮する必要がありますが、経験の少ない管理職やチームメンバーにとっては、どの程度まで関わっていいのかがわからないという課題があります。

また、十分なガイドラインがなく、「前例にならって同じように対応してしまう」ことも危険です。メンタルヘルス状態は人によって千差万別であるため、以前の事例が必ずしも今回のケースに当てはまるとは限りません。

4-2. 距離感を保つポイント

  • 明確なルール(マニュアル)作り
    休職中の連絡頻度や担当者、報告経路などを事前に決めておくことで、担当者の戸惑いや行き過ぎた対応を防止できます。
  • 面談前の情報共有
    休職者と面談する際、何を目的とするのか、どのような内容を話すのかを事前に共有しましょう。不要なプライベート領域に踏み込んでしまうリスクを減らせます。
  • 産業医やカウンセラーとの連携
    休職者本人が心理的に負担を感じている場合、専門家の視点を取り入れて「どのようなアプローチが適切か」を検討しましょう。産業医は企業の立場と医療の立場の両方を理解しており、企業と休職者の橋渡し的な役割を担います。

「休職中の連絡」は法的にどこまで可能か?

5-1. 法的観点からみた休職中の連絡

休職中であっても、従業員と企業の労働契約は継続しています。そのため、連絡を取ること自体が違法となるわけではありません。しかし、連絡の内容や方法、頻度によっては「退職を強要している」「ハラスメントにあたる」とみなされるケースがあります。

例えば、「会社の都合で早期復職を促す」「頻繁に呼び出して無理に打ち合わせをさせる」「復職しないなら退職した方がいい」などの言動があると、労働基準法や労働契約法、パワハラ防止法といった関連法規に抵触するおそれが高まります。こうしたトラブルは企業イメージの毀損につながるだけでなく、法的責任を追及されるリスクもあるため、注意が必要です。

5-2. 個人情報保護やプライバシーへの配慮

メンタルヘルス不調による休職の場合、企業側も従業員の病状を正しく把握し、職場復帰後のサポートを検討する必要があります。しかし、本人の同意を得ないままに過度な情報を収集しようとすると、プライバシー侵害個人情報保護法違反につながる危険があります。

  • 病状についての質問
    病名や治療内容など、医学的に深い情報を尋ねるのは原則避け、業務上必要な範囲にとどめましょう。
  • 診断書の取り扱い
    診断書は、復職の可否や就業上の配慮が必要かどうかといった範囲で活用します。その内容を不用意に第三者へ共有することがないよう、情報管理を徹底しましょう。

5-3. 連絡担当者を明確にするメリット

休職者との連絡があちこちから行われると、情報が混乱したり、企業側の対応方針にばらつきが生じやすいという問題があります。そこで重要なのが、連絡担当者を一元化することです。

  • 上司なのか、人事担当なのか
    休職中の相談や手続きなどは、人事担当または産業保健スタッフが窓口になるケースが多いです。上司が直接連絡を取る場合でも、人事・産業医と連携しながら行うとよいでしょう。
  • 情報の集約・管理
    連絡の日時や内容、担当者のメモなどを一定のルールのもとで記録しておくと、「誰が何を伝えたのか」が明確になります。誤解やトラブルを未然に防ぐうえでも重要です。

休職者が復職しやすい環境づくり

6-1. 復職プロセスの明文化

休職者とのコミュニケーションを円滑に進めるためにも、企業側が復職までの流れをきちんと示すことは非常に大切です。たとえば以下のステップを明文化し、書面や社内規程として周知しましょう。

  1. 主治医の診断書・意見書の確認
  2. 産業医面談の実施
  3. 試し出勤(リハビリ出勤)の可能性を検討
  4. 復職後の業務調整やフォローアップ面談

こうしたプロセスを明確化することで、休職者も自分がどの段階にいるかを理解しやすくなり、復職に向けた不安や負担を軽減できます。また、職場に復帰した後の業務量や業務内容の見直しも重要です。急激に元のペースに戻すのではなく、段階的な慣らしを行うことで再休職のリスクを減らせます。

6-2. ストレスチェック制度と産業医の活用

企業には年1回のストレスチェック制度が義務付けられていますが、単なる形式的な実施ではなく、実際に職場環境の問題を洗い出して改善するツールとして活用することが求められます。休職者だけでなく、同じ職場の他の従業員に対してもストレスの兆候が見られないかを確認し、早期に対策を講じることが大切です。

産業医による面談を適切に活用することも、休職者の早期発見やスムーズな復職支援につながります。産業医は医学的視点と職場事情の両面を理解したアドバイスができるため、従業員本人だけでなく管理職や人事担当者も積極的に相談することをおすすめします。

6-3. 同僚やチームメンバーへのサポート

休職者が復職したあとに「どう接していいのかわからない」と戸惑う同僚やチームメンバーがいるケースも多く見受けられます。そうした不安や誤解を防ぐために、ハラスメント予防研修社内周知を行い、復職者とのコミュニケーションの取り方について理解を深めてもらうとよいでしょう。

本人が必要以上に周囲の視線を気にして再度ストレスを抱えることがないよう、必要な配慮や業務調整を行うことも重要です。職場全体でフォローし合う体制を整えることは、長期的な視点で見れば企業の生産性やチームワークの向上にも寄与します。

よくあるQ&A

Q1. 病状が気になる場合、どこまで聞いていい?

必要な業務範囲の範囲でのみ質問することが原則です。具体的な病名や治療内容の詳細に踏み込むのは避け、復職可能時期の目安や業務への配慮点について確認する程度にとどめましょう。本人が話したくない情報を無理に聞き出すと、プライバシー侵害に該当する恐れがあります。

Q2. 休職期間中に会社主催のイベントに誘ってもいいの?

休職者本人が参加を望んでいる場合は、誘い方やイベントの内容次第では問題ありません。ただし、本人の体調や意向を尊重し、強制的に参加させることは避けるべきです。参加を断られても「人付き合いが悪い」などと評価することは、ハラスメントと捉えられる恐れがあります。

Q3. 休職が長期化する際の対応は?

休職が長期化する場合は、主治医・産業医・人事担当者・本人の四者で面談し、復職の可能性や必要な配慮を改めて検討することが重要です。ときには配置転換や業務内容の変更を視野に入れる必要があるかもしれません。いずれの場合も、企業側の勝手な判断ではなく、専門家(産業医)の意見を含め、協議したうえで最適解を探る姿勢が求められます。

まとめ

休職者とのコミュニケーションは、一歩間違えると「連絡しすぎ」によるハラスメントリスクや、「連絡しなさすぎ」による復職意欲の低下など、さまざまな問題を引き起こします。法的観点やプライバシーへの配慮を踏まえながら、企業として連絡頻度や担当者を明確にしたルール作りを行うことで、トラブルを未然に防ぎやすくなります。

産業医やカウンセラーと連携し、休職者の心身の状態に合わせたフォローを行うことは、休職者が安心して療養できる環境を整えるだけでなく、スムーズな復職と職場定着を実現するためにも効果的です。さらに、周囲の従業員への研修や情報共有を行い、職場全体で適切な対応を進めることで、企業ブランディングや生産性向上にもつながります。

企業側が休職者対応に真摯に取り組む姿勢を示すことは、組織の信頼度を高め、結果として従業員のモチベーション維持にも寄与します。ぜひ本記事で紹介したベストプラクティスを参考に、休職者とのコミュニケーションを見直し、より働きやすい職場環境づくりに取り組んでみてください。

産業医 / 健康経営アドバイザー 松田悠司

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