小規模企業でもできる!産業医を“活かす”ための実践的アイデアと工夫
「産業医と契約はしているけれど、訪問時に少し話すくらいで、正直どう活用したら良いかわからない…」 小規模企業の経営者や人事担当者の方から、このような声をお聞きすることがあります。法令遵守のために産業医を選任したものの、その力を十分に引き出せていないケースは少なくありません。
しかし、たとえ月1回・数時間の訪問であっても、産業医の専門知識や経験を活かす工夫を凝らせば、従業員の健康リスクを大幅に減らし、ひいては企業の成長に繋げることが可能です。本コラムでは、限られたリソースの中で産業医の力を最大限に引き出すための、実践的なアイデアと工夫をご紹介します。
限られた時間でも成果を出す!企業側の準備と「目的共有」
産業医の訪問を有意義なものにするためには、企業側の事前の準備が不可欠です。面談や職場巡視を“なんとなく”で終わらせず、“目的ベース”で設計することが重要になります。
まず、産業医の訪問前に、企業が抱える健康課題や相談したい内容をリストアップしましょう。
- 休職者の復職支援に関する相談
- 長時間労働者や高ストレス者への対応
- 従業員の配置転換に関する医学的意見
- メンタルヘルス不調の予防策に関するアドバイス
- 健康診断結果に基づく有所見者への対応
これらの課題を事前に産業医と共有し、訪問時の限られた時間で何を優先的に取り組むかを明確にしておきましょう。例えば、「今月の訪問は1時間なので、休職中のAさんとの復職面談と、最近残業が増えているB部署の状況確認に絞りましょう」といった具合に、人事側で「優先順位」を決めておくのです。
このように目的を明確にすることで、産業医も企業側のニーズを的確に把握し、具体的なアドバイスや介入を行いやすくなります。
月1回の面談・職場巡視を“最大限に活かす”工夫
✅ 面談編:個々の従業員と向き合う貴重な機会
産業医面談は、従業員の心身の健康状態を把握し、必要なサポートを行うための重要な機会です。
- ストレスチェック結果の活用:ストレスチェックで高ストレスと判定された従業員への面談はもちろん、結果のフィードバックを通じて、従業員自身がセルフケア意識を高めるきっかけにもなります。また、集団分析結果を基に、職場環境改善に関する就業上の配慮を産業医と共に検討することも有効です。
- 「気になる従業員」へのアプローチ:本人からの申し出だけでなく、上司から見て「最近元気がない」「集中力が低下しているようだ」といった気になる従業員について、産業医に相談し、対応を検討することも大切です。早期発見・早期対応が、重症化を防ぐ鍵となります。
- 記録と連携体制の整備:面談内容は、個人情報保護に最大限配慮しながら記録し、必要な情報を人事担当者と共有する体制を整えましょう。これにより、継続的なフォローアップや職場内での適切な配慮に繋げることができます。
✅ 巡視編:「職場の健康課題」を可視化するチャンス
職場巡視は、単に作業場所を見て回るだけでなく、「職場の健康課題を可視化する機会」と捉えましょう。
- 五感を活用したチェック:空調が効きづらく暑すぎる・寒すぎる場所はないか、作業スペースの照明は十分か、騒音や臭いが気になる場所はないかなど、従業員が日々感じているかもしれないストレス要因を産業医の専門的な視点からチェックしてもらいます。
- 従業員へのヒアリング:巡視中に従業員へ声をかけ、作業環境に関する困りごとや改善希望などをヒアリングすることも有効です。
- 改善提案の共有と実行:巡視後に産業医から提出される“改善提案レポート”は、必ず社内で共有し、具体的な改善アクションに繋げましょう。小さな改善の積み重ねが、働きやすい職場環境を実現します。
従業員にこそ伝えたい“産業医の顔と役割”
特に小規模企業では、「産業医って誰?」「何を相談できるの?」と、従業員にとって産業医の存在が遠いものになりがちです。産業医に気軽に相談できる雰囲気をつくることが、活用の第一歩と言えるでしょう。
- 新入社員・中途採用社員との顔合わせ面談の実施:従業員が会社に新たに参加するタイミングは、産業医を知ってもらう絶好の機会です。例えば、新入社員研修の一環として、あるいは中途採用社員の入社時のオリエンテーションなどに産業医との顔合わせ面談を組み込むことをおすすめします。これにより、早い段階から「会社には相談できる産業医がいる」という認知が広まり、健康やメンタルヘルスに関する初期の不安や疑問に対応しやすくなります。また、産業医自身にとっても、新しく加わった従業員の初期状態を把握できるメリットがあります。
- 情報発信による認知度向上:社内ポータルサイトや掲示板に産業医のプロフィール(顔写真、専門分野、趣味など)や連絡先を掲載したり、過去の相談事例(個人が特定できないよう匿名化)を共有したりするのも効果的です。産業医の「人となり」や「相談できること」が具体的に伝わることで、相談へのハードルがぐっと下がります。
産業医活用の“次の一歩”:企業成長と共に体制を育てる視点
月1回の産業医訪問でも、継続的に目的意識を持って取り組むことで、徐々に「職場の健康文化」が根付いてきます。従業員の健康意識が向上し、早期の不調発見や相談が増え、結果として休職者の減少や生産性の向上といった成果が見えてくるでしょう。
企業が成長し、従業員数が増えてくれば、産業医との契約内容を見直し、訪問時間や頻度を増やすことも将来的な検討対象となります。産業医の活動を、健康経営や人的資本経営を推進するための重要な足がかりとして位置づけ、積極的に活用していく視点が大切です。
まとめ:小規模だからこそ、密な連携で“強い現場”をつくる
限られたリソースの中で、それをいかに有効活用するかが、小規模企業の持続的な成長力を左右します。産業医は、単に法令を遵守するためだけの存在ではありません。企業の現状を理解し、現場に寄り添いながら、健康課題の解決に向けて共に歩んでくれる“パートナー”となり得るのです。
「うちの会社には、まだ早い」「コストをかける余裕がない」と諦める前に、まずは小さなアクションから始めてみませんか?
- 目的共有:産業医に何を期待するのかを明確に伝える
- 優先順位:限られた時間で何に取り組むかを決める
- 見える化:産業医の活動や役割を従業員に知らせる
これらの工夫を通じて産業医との連携を深めることが、従業員がいきいきと働ける“強い現場”づくり、そして企業の未来への投資に繋がるはずです。
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産業医 / 健康経営エキスパートアドバイザー 松田悠司