産業医が解説!健康診断の再検査対象者への効果的な声かけ方法

産業医が解説!健康診断の再検査対象者への効果的な声かけ方法

1. はじめに ~健康診断の「再検査」はなぜ重要?~

健康診断を受けた後、「要再検査」や「要精密検査」と判定された経験はありませんか。結果票にそのような記載があると、多くの人は「また病院へ行かなくてはならないのか」「大したことないだろう」という戸惑いや億劫さを感じるものです。しかし、再検査は単なる“もう一度の検査”ではなく、早期発見・早期治療を可能にし、従業員の健康を守るうえで非常に大切なステップです。

企業にとっても、従業員が健康を保ちながら働き続けられる体制づくりは、生産性向上や企業イメージの向上につながる重要な課題です。特に産業医は、従業員一人ひとりの健康状態を早期に把握し、必要に応じて医療機関との連携を図りながら、再検査受診の勧奨やフォローアップを行う役割を担っています。

本コラムでは、再検査を勧めたい対象者にどのように声かけをすれば、不安や抵抗感を取り除き、行動変容を促すことができるのかについて解説します。さらに、再検査を受けただけで終わらせず、継続的なフォローを行うための体制づくりや成功事例も紹介します。企業全体で健康管理を強化し、従業員が安心して働ける環境を実現するためのヒントになれば幸いです。

2. 再検査対象者が抱える心理と行動変容の難しさ

「再検査」と聞くと湧き上がる不安や抵抗感 健康診断の結果に「要再検査」や「要精密検査」と書かれていると、本人は大きな不安に襲われることがあります。何か大きな病気が隠れているのではないかという恐怖が頭をよぎる一方で、「どうせ大したことではない」と過小評価する心情も存在します。

さらに、通院には時間や費用、休暇取得などの負担も付きまといがちです。特に仕事が忙しい時期や家族の都合がある人ほど、「後回しにしてしまおう」と思うケースが多く、結果として検査を先延ばしにしてしまうことも珍しくありません。

行動変容が難しい背景 健康管理で重要なのは、生活習慣の見直しや適切な受診行動です。しかし、運動習慣の確立、食生活の改善、禁煙や節酒の実践などは、短期間では成果が現れにくいため、継続すること自体が難しいと感じる人が多くいます。勤務形態や職場環境が阻害要因となり、規則正しい生活リズムを維持できない人もいるでしょう。こうした状況下では、「そもそも再検査を受けたところでどうせ生活を変えられない」とあきらめる方も出てきます。

企業や産業医ができることは、再検査対象者が抱えている不安や生活上のハードルを具体的に把握し、寄り添ったサポートをすることです。再検査の必要性を説得するだけではなく、対象者が行動しやすい道筋や環境を整えたうえで、「検査を受けるメリット」に気づいてもらうことが大切になります。

3. 産業医が解説!再検査対象者への効果的な声かけのポイント

3-1. 相手を尊重し、不安を取り除くコミュニケーション

親身な姿勢・傾聴の重要性 「再検査に行ってください」と一方的に伝えるのではなく、まずは相手の声に耳を傾ける姿勢が重要です。「検査が面倒」「仕事が忙しい」「費用がかかるのが心配」など、対象者の思いや悩みをしっかり聞くことで、相手が「この人は自分のことを理解してくれている」と安心感を得やすくなります。

難しい医学用語は使わず、わかりやすく具体的に話す 医療現場で使用する用語や数値は、一般の従業員にはハードルが高いもの。できるだけかみ砕いた表現や身近な例えを使い、再検査を受ける意味を伝えましょう。「〇〇の数値が高いのは、生活習慣病のリスクが高まっている合図です。放置すると将来○○病につながる可能性があるので、早めに再検査を受けておきましょう」というように、具体的な危険性と対策を一緒に伝えると効果的です。

「行かなきゃダメ!」ではなく、「検査を受けるメリット」を共に考える 「病院に行きましょう!」と強制するだけではモチベーションは上がりません。むしろ「今受けておくと安心できる」「将来の大きな出費やリスクを減らせる」といったメリットを本人と一緒に考え、再検査受診への意義を実感してもらう方が効果的です。

3-2. 行動変容を促す「モチベーションアップ」の言葉がけ

「将来の健康リスク」を共有しつつ、本人の価値観を尊重 漠然とした不安を抱えるより、具体的なリスクを知る方が人は行動しやすくなります。たとえば「今から治療すれば、大がかりな入院や手術を避けられる可能性が高い」など、リスクを数値やシナリオで伝えるのも有効です。ただし、不安ばかりを煽るのではなく、「あなたが元気に働き続けるために重要」「家族との時間を守るためにも必要」といった、本人が大切にしている価値観に結びつけると、主体的な行動を促しやすくなります。

小さな成功体験を積み重ねるアドバイス 「生活習慣をまるごと変える」ことはハードルが高いので、最初は「1駅だけ歩く」「週1回ウォーキングをする」など、小さな成功体験を提案します。小さな変化が積み重なると自信が生まれ、より大きな行動変容につなげやすくなります。

ステージに応じた具体的目標設定(SMARTの考え方) 目標は漠然と立てるのではなく、Specific(具体的)・Measurable(測定可能)・Achievable(達成可能)・Relevant(関連性)・Time-bound(期限)の5要素を意識します。「今月中に病院で再検査を受け、結果を踏まえて3カ月後に血圧を○mmHg下げるための運動を週2回取り入れる」というように、日程や行動指標、目的を明確にすることで行動しやすくなります。

4. 面談時に避けるべき言い回し・伝え方

4-1. 負担感を与える表現や強要表現

「すぐに病院に行きなさい」「自己管理が甘い」など、相手を責めるような口調は禁物です。強制や命令口調は相手のプライドを傷つけ、拒否感を強める原因になります。また、「このままだと大変なことになるぞ」と過度に不安をあおる言い方も避けましょう。必要な危機感は伝えつつも、相手が前向きな気持ちで行動できるよう、言葉遣いには配慮が必要です。

4-2. 個人の生活習慣を頭ごなしに否定する態度

「怠けているから太る」「サボっているから病気になる」など、人格を否定するような発言は逆効果です。特に生活習慣は個人のライフスタイルや考え方、家族構成など、様々な要因が絡み合ってできています。産業医や管理栄養士などが専門知識をもとにアドバイスをする際も、まずは背景を理解しようとする姿勢が欠かせません。

4-3. 具体性の欠けた助言や曖昧な指示

「生活習慣を見直してください」「早めに病院に行ってください」だけで終わる助言では、相手は次にどのような行動を取ればいいのか分かりません。提案するなら、「いつまでに」「どこで」「どのように」行動すればいいのか、相手が具体的にイメージできる形で伝えることが大切です。

5. 再検査を促すだけじゃない!フォローアップの継続的仕組みづくり

5-1. 再検査後の継続サポートが重要な理由

再検査を受けた後、検査結果が明らかになっても、それが最終ゴールではありません。実際に治療が必要なケースや、生活習慣改善の取り組みが必要な場合、フォローアップを継続しないと結局何も変わらず、将来的なリスクが高まる可能性があります。企業として従業員が仕事を続けやすい環境を整えれば、パフォーマンスや定着率の向上にもつながるでしょう。

5-2. 産業医・保健師・管理栄養士との連携

産業医による継続的な健康相談と定期面談 再検査で要フォローとなった従業員に対しては、産業医が定期的に健康相談や面談を行い、メンタル面を含めた健康状態をチェックします。特にメタボリックシンドロームや血圧・血糖値の異常が見つかった場合は、中長期的な生活習慣の改善計画を提案できる産業医の役割が大切です。

管理栄養士や保健師を活用 食事指導や運動指導、メンタルヘルスケアなど、保健師や管理栄養士と協働しながら、従業員をトータルでサポートする体制を作りましょう。社員食堂がある企業なら、塩分やカロリーを抑えたメニュー開発を行うなどの取り組みも有効です。

5-3. 生活習慣改善プログラムや社内研修の導入

歩数計アプリや禁煙プログラム、メンタルヘルスケア 小さな行動から始められる取り組みを社内で促進することで、従業員が楽しみながら健康意識を高められます。例えば、スマホアプリを使った歩数計イベント、定期的に実施する禁煙プログラム、ストレス管理に関するセミナーなどが挙げられます。

社内報やポータルサイトを活用した情報共有 「再検査を受けよう」「生活習慣改善をしよう」といった取り組みを地道に周知していくため、社内報やポータルサイトを通じて、健康関連の情報やイベント告知をこまめに発信しましょう。朝礼や部門ミーティングなどを活用するのもおすすめです。

6. 再検査対象者へのサポート事例(ケーススタディ)

■ケース1:高血圧・肥満へのアプローチ

【状況】
健診で血圧が高め・肥満の従業員が複数名いたが、「忙しい」「自覚症状がない」などの理由で再検査を後回しにしていた。

【産業医】
・難しい医学用語を避け、将来リスクやメリットを具体的に説明。
・「検査をしないとダメ」ではなく、「早めに受けると負担も少なく安心できる」と前向きな動機付けを実施。

【担当者】
・病院へ行きやすいよう休暇や時間調整のルールを明確化。
・社内キャンペーンを企画し、ウォーキングや簡単なダイエットチャレンジをスタート。

【効果】
・再検査の受診率向上。体重管理や血圧の改善が進むうちに、社員が健康意識を高め、全体の取り組み意欲もアップ。

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■ケース2:生活習慣病予備群とメンタル面への配慮

【状況】
ストレス過多で受診を避けていた従業員。「病院が怖い」「さらに不安が増えそう」と拒否感が強かった。

【産業医】
・まず不安や仕事上の悩みを丁寧にヒアリング。
・「ストレス対策と体のケアが互いを補う」と説明して、検査によるメリットを強調。

【担当者】
・産業医相談をしやすいよう面談体制やプライバシー保護を周知。
・「検査後に万一問題が出ても、休暇や業務調整など柔軟に対応する」とサポート姿勢を具体的に提示。

【効果】
・実際に検査を受けると、漠然とした不安から解放され、「早めに把握できてよかった」という声が増加。
・ストレス由来のメンタル不調リスクを軽減し、定期フォローアップ面談で健康意識が着実に高まった。

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■ケース3:要精密検査が出た場合

【状況】
「重い病気かも」「費用がかさむのでは」とショックを受け、心理的負担を感じた従業員が検査を先延ばしにしようとしていた。

【産業医】
・「今は状態を知るチャンス」と前向きに捉えさせ、検査内容や手順をわかりやすく解説。
・懸念点(費用や時間負担など)を細かく確認し、必要に応じて担当者との調整を提案。

【担当者】
・精密検査を受けやすい環境づくり(有給取得・時短勤務の取りやすさなど)を明確化。
・受診から職場復帰までの社内手続きをまとめ、従業員の不安軽減に努める。

【効果】
・従業員が「思ったよりスムーズに手続きできる」と安心し、早期に受診。
・結果的に重篤化を防ぎ、後の治療も短期間で済むなど、企業にとってもリスク軽減につながった。

7. 産業医の活用で企業が得られるメリット

健康経営の実践による企業イメージ向上 近年「健康経営優良法人」に認定される企業が増えていますが、産業医との連携を深めることで、一層従業員の健康を大切にする企業としての評価が高まります。取引先や求職者から「この会社は安心して働けそう」と思われると、採用競争力やブランド力の向上にもつながります。

長期的な医療費削減と生産性向上 再検査や早期治療によって重症化を防ぐことで、休職や長期入院が必要となる事態を回避でき、医療費の削減にも寄与します。また健康維持が徹底されれば、欠勤や業務効率低下を招くリスクが減るため、生産性の向上や業績アップも期待できます。

職場風土の改善と従業員満足度アップ 「健康診断の再検査は面倒」「忙しくて行く暇がない」という職場の風土を見直し、会社全体で健康を守るムードを醸成することで、従業員満足度が上がります。産業医が定期的に顔を合わせる機会を作り、なんでも相談しやすい環境を整えれば、メンタル面のトラブルも未然に防ぎやすくなります。

8. まとめ:負担なく行動変容を促し、健康を守るために

再検査対象者への声かけは「寄り添い」がカギ 「再検査=面倒」というイメージを払拭し、相手を責めるのではなく、その背景や不安を理解しようとする寄り添いの姿勢が大切です。具体的な行動目標とメリットを明確に示すことで、対象者が主体的に受診する後押しになります。

フォローアップと仕組み化で効果を高める 検査を受けただけで終わりにするのではなく、産業医や保健師、管理栄養士と協力し、生活習慣やメンタル面のフォローアップを継続的に行いましょう。定期的な面談や社内研修、社内報での情報発信など、企業全体で取り組む体制を整えると効果が高まります。

産業医を積極的に活用し、企業全体の健康経営を推進 再検査対象者への声かけやフォローのプロセスは、産業医をはじめとした専門家と連携することで格段にスムーズになります。健康診断の結果を“書類上の判定”だけで終わらせず、そこから従業員の健康リスクを早期に把握・改善する姿勢をもつことが、企業にとっての強みにもなります。

健康診断の再検査をきっかけに、従業員の健康と企業の生産性を両立させるための取り組みを、ぜひ始めてみませんか。産業医や専門スタッフとの連携はもちろん、社内制度の充実や情報発信を通じて、従業員が安心して働き続けられる職場づくりを一緒に目指していきましょう。「まずは相談したい」という方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

産業医 / 健康経営エキスパートアドバイザー 松田悠司

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