産業医による早期発見が鍵!企業のメンタルヘルス対策で心身の健康を守る方法

産業医による早期発見が鍵!企業のメンタルヘルス対策で心身の健康を守る方法

厚生労働省の調査によると、2022年に行われた労働安全衛生調査では、「仕事や職業生活に関することで、強いストレスになっていると感じる事柄がある」と答えた労働者の割合は82.2%でした。 心身の不調は、自分自身だけでなく、企業にとっても大きな損失に繋がります。

実は、企業の健康管理には、「産業医」の存在が欠かせません。 産業医は、職場の環境改善やメンタルヘルス対策などを通して、従業員が健康的に働き続けられるようサポートする、いわば「職場の健康を守る専門家」です。

この記事では、産業医の役割や重要性に加えて、企業が行うべきメンタルヘルス対策と早期発見のためにできることについて具体的に解説していきます。

産業医とは?企業のメンタルヘルス対策における役割と重要性を解説

皆さんの職場には、従業員の健康を守る「産業医」の先生がいますか?

毎日元気に働くためには、体だけでなく心の健康も大切です。


今回は、職場におけるメンタルヘルスの重要性が高まる中、企業にとって心強い味方である産業医の役割や重要性について、わかりやすく解説していきます。

産業医の定義と役割とは?

産業医とは、職場において従業員の健康管理や安全対策を専門的にサポートする医師のことです。過重労働やストレスによる健康リスクを予防し、適切な働き方を企業に助言する役割を担います。

例えるなら、会社の健康管理に特化した医師免許のようなものです。 彼らは、職場において従業員の心身の健康を保つために、専門的な立場から企業への助言や指導を行う役割を担います。

産業医の役割は、「病気の予防」と「早期発見と対応」の大きく二つに分けられます。

1.病気の予防

職場環境が従業員の健康に悪影響を与えないよう、定期的に職場を巡回し、改善点があれば会社に意見を伝えます。

例えば、長時間労働や、仕事量の偏りがないか、適切な照明や換気がされているかをチェックするなどです。

また、従業員向けに、健康に関する講習会や、ストレスを解消するためのセミナーなども行います。このような活動を通して、従業員が健康的に働き続けられる環境づくりを目指します。

2.早期発見と対応

定期的な健康診断の結果や従業員からの相談を通して、従業員の健康状態をチェックします。ストレスや過労などによって、心のバランスを崩している従業員がいる場合は、産業医の先生に相談してみましょう。

必要があれば、専門の医療機関を紹介したり、会社と連携したりして、休職などの対応を検討します。早期発見・早期対応によって、従業員が重症化する前に適切なサポートを受けられる体制を整えます。

産業医を選任するメリット

企業が産業医を選任すると、従業員と企業のそれぞれにメリットがあります。それぞれ具体的に見ていきましょう。

【従業員にとってのメリット】

  • 健康上の不安や悩みを相談できる相手ができる
  • 安心して仕事に取り組める
  • 早期発見・早期治療により、重症化する前に対策が取れる
  • 健康に関する知識や情報を得られる
  • 自ら健康管理を行う意識が高まる

【企業にとってのメリット】

  • 従業員一人ひとりのパフォーマンスが向上する
  • 企業全体の生産性向上につながる
  • 企業の社会的責任を果たせる
  • 企業のブランドイメージが向上する
  • 健康経営を推進できる
  • 従業員の定着率向上や、優秀な人材の確保が期待できる

メンタルヘルスの早期発見:企業と産業医ができること

職場は、人生の大部分を過ごす場所です。だからこそ、心身ともに健康でいられることが何よりも大切です。企業と産業医が協力し、従業員のメンタルヘルスに積極的に関わることで、早期発見・早期対応につなげることができます。

うつ病などの精神疾患は、早期発見・早期治療が極めて重要です。適切な治療を受けずに放置してしまうと、症状が悪化し、回復までに時間がかかってしまう可能性が高まります。

しかし、心の病は、風邪のように目に見える症状が現れにくいという難しさがあります。

「最近、少し元気がないな」「疲れているのかな」と周囲が感じる頃には、既に、本人はかなり無理をして頑張っているケースも少なくありません。

だからこそ、企業と産業医が一体となって、従業員の心の状態に気を配り、早期発見・早期対応に繋がる体制を構築していくことが重要です。

メンタルヘルスの早期発見のために、産業医と企業が連携してできることを詳しく見ていきましょう。

  • メンタルヘルス問題のサインを見つける
  • 従業員とコミュニケーションを取る
  • ストレスチェック制度を活用する
  • ラインケアを行う

メンタルヘルス問題のサインを見つける

「普段は明るい同僚が、最近元気がない。」「会議で意見を求めても、うつむいたまま反応がない。」

このような変化は、メンタルヘルスの不調のサインかもしれません。小さな変化を見逃さずに、早期発見につなげることが重要です。

例えば、次のようなサインが挙げられます。

  • 表情の変化:以前は笑顔が多かった人が、無表情になったり、暗い表情を見せたりすることが増えた。
  • コミュニケーションの変化:話しかけても反応が鈍い、会話が続かない、会議などで発言しなくなった。
  • 仕事への意欲の低下:仕事に対するモチベーションが低下し、ミスや遅刻が増えたり、集中力が続かなくなった。
  • 身体症状の出現:頭痛、腹痛、不眠、食欲不振などの身体的な症状を訴えるようになった。
  • 孤立:休憩時間なども一人で過ごすことが増え、周囲とのコミュニケーションを避けるようになった。

これらのサインは、あくまで一例です。重要なのは、いつもと違う様子が見られたら、何か困っていることはないか、声をかけることです。

「最近、どうしたの?何かあったら相談に乗るよ」と、相手を気遣う言葉をかけることが、早期発見の第一歩となります。

従業員とコミュニケーションを取る

日頃から従業員とコミュニケーションを密にとり、信頼関係を築くことが大切です。風通しの良い職場環境を作ることで、従業員が悩みや不安を相談しやすくなります。

例えば、次のような取り組みが考えられます。

  • 定期的な面談の実施:月に一度など、定期的に面談を行い、従業員の仕事や生活の状況、キャリアプランなどをじっくりと聞き取りましょう。
  • 雑談の時間を設ける:休憩時間や仕事の合間に、気軽に話せる雰囲気を作りましょう。仕事以外の話題を通じて、従業員のプライベートな部分にも目を向け、信頼関係を築くことが大切です。
  • 相談しやすい雰囲気づくり:従業員が安心して相談できるよう、話しやすい雰囲気を心がけましょう。「いつでも相談してね」と、日頃から声をかけておくことも大切です。

ストレスチェック制度を活用する

ストレスチェック制度は、従業員のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を予防するための制度です。年に一度、従業員にアンケート調査を実施し、その結果に基づいて医師による面接指導を受ける機会を設けることができます。

ストレスチェック制度を活用すれば、従業員自身が自分のストレスに気づくことができ、必要な場合は専門家のサポートを受けることができます。

ストレスチェックは、あくまで従業員のストレス状態を把握するためのツールであり、それ自体が目的ではありません。重要なのは、ストレスチェックの結果を踏まえ、従業員一人ひとりの状況に合わせて、適切な対応を行うことです。

ラインケアを行う

上司や同僚は、従業員の普段の様子をよく知る立場にあります。そのため、メンタルヘルスの不調にいち早く気づくことができるでしょう。

そこで活用したいのが、ラインケアです。ラインケアとは、上司が部下に対して行うメンタルヘルスケアの一種で、部下のストレス軽減や職場環境の改善を目的としています。

ラインケア研修などを実施し、上司や同僚がメンタルヘルスの知識を深め、適切な対応を取れるようにすることが重要です。また、相談を受けた際には、人事部や産業医に繋げるなど、適切な対応をしましょう。

メンタルヘルスの問題は、早期発見・早期対応が重要です。企業と産業医が協力し、従業員の心の健康を守るための取り組みを積極的に進めていきましょう。

メンタルヘルス不調の予防:企業における具体的な取り組み

やりがいを感じ、充実した日々を送るためにも、心身ともに健康でいることは非常に大切です。企業は、従業員のメンタルヘルス不調を予防するために、以下の取り組みを積極的に進めていきましょう。

  • 職場環境改善を改善する
  • ストレスマネジメント研修を実施する
  • ワークライフバランスを推進する

職場環境改善の重要性

職場環境が劣悪だと、従業員のストレスが高まり、メンタルヘルスの不調をきたすリスクが大幅に上昇します。

このような事態を避けるため、企業は、従業員が安心して快適に働けるような職場環境づくりに積極的に取り組みましょう。

【具体的な取り組み例】

  • 明るい職場の雰囲気づくり:コミュニケーションの活性化や社員同士の交流促進。
  • 業務量の適正化:業務の分担見直しや優先順位の整理による負担軽減。
  • 労働時間管理の徹底:労働時間の記録と管理を強化し、過労を防止。
  • 物理的な労働環境の改善:照明や空調設備の整備、デスクや椅子の改善。

ストレスマネジメント研修の実施

ストレスマネジメントとは、ストレスの原因を把握し、ストレスに対処するための方法を身につけることです。

企業は、従業員がストレスマネジメントの知識やスキルを習得できるよう、研修を実施することが重要です。

【効果的な研修内容の例】

  • ストレスへの理解を深める: ストレスとは何か、ストレスによって身体や心にどのような影響があるのかなどについて、基本的な知識を学ぶ。
  • 自分自身のストレス要因を把握する: ストレスの原因となる出来事や状況を具体的に書き出したり、ストレスを感じやすい自分の性格や考え方などを分析する。
  • ストレス解消法を身につける:呼吸法、リラクゼーション法、運動、趣味など、自分に合ったストレス解消法を学び、実践する。
  • アサーション(assertive communication)スキルを習得する: 自分の意見や気持ちを相手にハッキリと伝えるとともに、相手の意見や気持ちも尊重するコミュニケーションスキルを学ぶ。

ワークライフバランスの推進

ワークライフバランスとは、仕事とプライベートの調和を図ることです。

仕事に偏った生活を送っていると、ストレスがたまりやすく、メンタルヘルス不調のリスクが高まります。企業は、従業員が仕事とプライベートの両方を充実させ、バランスの取れた生活を送れるよう、支援しましょう。

【企業ができる具体的な支援】

  • 休暇取得の推奨: 年次有給休暇の取得率向上に向けて、計画的な休暇取得を推奨するなど、制度の利用を促進する
  • 柔軟な働き方の導入: フレックスタイム制、テレワーク制度、時短勤務制度などを導入し、ライフスタイルに合わせた働き方を選択できるようにする
  • 仕事と家庭の両立支援: 育児休暇や介護休暇などの制度を充実させたり、保育施設や介護施設の利用料補助などを行ったりする

相談しやすい環境づくり

従業員が安心して相談できるよう、相談しやすい環境を整えることが大切です。

相談窓口を設けるだけでなく、相談しやすい雰囲気づくりや相談しやすい関係性を築くことが重要です。

【相談しやすい環境づくりのためのポイント】

  • 相談窓口の周知徹底: 利用方法やどのような相談ができるのか、具体的に明記する
  • 相談しやすい雰囲気づくり: 相談に来た従業員に対して、否定的な態度を取らない
  • プライバシーに配慮する:個人情報を不用意に開示することは避け、プライバシーに配慮し、安心して相談できる雰囲気づくりに努める
  • 相談しやすい関係性: 日頃から従業員とのコミュニケーションを密にとり、信頼関係を築く

メンタルヘルスの不調を早期発見するために産業医と連携しよう

職場におけるメンタルヘルス対策の重要性が増す中で、産業医は従業員の心身の健康を守る上で重要な役割を担っています。

職場環境の改善やストレスマネジメント研修など、具体的な取り組みを行い、従業員のメンタルヘルス不調の予防、早期発見に努めていきましょう。

より専門的で効果のあるメンタルヘルスケアや予防策を実施するなら、その道のプロである産業医と連携するのがおすすめです。従業員のメンタルヘルスケアに力を入れ、より働きやすい職場環境を構築したい場合は、積極的に産業医を活用してみましょう。

産業医 / 健康経営アドバイザー 松田悠司

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