化学物質の自律的管理|名古屋・愛知の中小製造業が2027年4月までに確認したい5つのこと

「うちは塗料や洗浄剤を使っているだけだから、化学物質の規制は関係ない」「SDSは棚にあるが、誰も中身を見ていない」。名古屋・愛知の製造業や整備業の経営者・総務担当者の方から、このようなお話をよく伺います。2023年から2024年にかけて、職場の化学物質管理は「国が物質ごとに細かく決める」方式から、「事業者が自分でリスクを評価して管理する」方式(自律的な管理)へ大きく変わりました。 [S1]

対象となる物質は今後も段階的に増え、厚生労働省は令和9年(2027年)4月1日施行分、令和10年(2028年)4月1日施行分の対象物質一覧をすでに公表しています。この記事では、従業員数十人規模の事業場が、来年4月までに確認しておきたい5つのことを、産業医・労働衛生コンサルタントの視点で整理します。 [S1]

「自律的な管理」で何が変わったのか

改正の柱は、①ラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントの対象物質を大幅に広げること、②そのリスクアセスメントの結果に基づいて、事業者自身がばく露を最小限にする措置を決めること、③事業場ごとに「化学物質管理者」を選任して技術的な事項を担当させることの3点です。2024年4月1日には、GHS分類で危険性・有害性の区分1に該当する234物質がリスクアセスメント対象物に追加されました。 [S2]

つまり、特定化学物質障害予防規則などの個別規則に該当しなかった物質でも、SDSに「危険性・有害性あり」と書かれていれば、リスクアセスメントと対策の対象になりうるということです。「特化則の対象ではないから大丈夫」という判断は、もう通用しません。 [S2]

1.取り扱っている化学物質を棚卸しし、SDSをそろえる

最初にやるべきことは、現場で使っている製品(塗料、接着剤、洗浄剤、潤滑油、溶剤、めっき液など)をすべて書き出し、それぞれのSDS(安全データシート)を最新版で入手することです。SDSの「2. 危険有害性の要約」にGHSの絵表示や区分が記載されており、ここがリスクアセスメントの出発点になります。 [S2]

名古屋・愛知の中小製造業では、購入先が商社で、SDSが数年前のものしか手元にないというケースが少なくありません。SDSは2023年4月以降、通知事項に「想定される用途と使用上の注意」が追加され、2024年4月以降は成分の含有量を重量%で記載することになっています。古い版のままでは、この情報が抜けています。 [S2]

2.化学物質管理者と保護具着用管理責任者を決める

リスクアセスメント対象物を製造・取り扱う事業場では、2024年4月1日から、事業場ごとに化学物質管理者を選任し、化学物質に関する技術的事項(ラベル・SDSの確認、リスクアセスメントの実施、ばく露防止措置、労働者教育など)を管理させることが必要になりました。 [S2]

あわせて、リスクアセスメントの結果に基づいて保護具を使用させる場合には、保護具着用管理責任者を選任し、保護具の選択・使用・保守管理を担当させます。小規模な事業場では、化学物質管理者を工場長や品質管理の担当者が兼ね、保護具着用管理責任者を現場のリーダーが担う形が現実的です。誰が担うかよりも、「決めて、記録に残し、必要な講習を受けてもらう」ことが重要です。 [S2]

3.リスクアセスメントを「紙1枚」から始める

リスクアセスメントというと専門的な測定が必要に思えますが、最初から作業環境測定や個人ばく露測定を行う必要はありません。厚生労働省が公開しているツール(CREATE-SIMPLEなど)を使えば、SDSの情報と、使用量・作業時間・換気の状況を入力するだけで、おおまかなリスクの程度を推定できます。 [S1]

2024年4月1日からは、屋内作業場で濃度基準値が定められた物質については、労働者のばく露をその基準値以下に抑えることが事業者の義務になっています。推定の結果、基準値を超えるおそれがある作業については、換気の改善や作業方法の見直しを検討し、それでも下がらない場合に測定や保護具の検討に進む、という順序で考えます。 [S2]

4.衛生委員会(または労働者の意見聴取)で化学物質を議題にする

改正により、衛生委員会の付議事項に、化学物質の自律的な管理に関する事項(ばく露低減措置の内容、濃度基準値を超えた場合の対応、健康診断の結果と措置など)が追加されました。従業員50人未満で衛生委員会のない事業場でも、関係労働者の意見を聴く機会を設けることが求められています。 [S2]

衛生委員会で化学物質を議題にすると、「あの作業のときに目や喉が痛くなる」といった、SDSだけでは分からない現場の声を拾うきっかけになります。少なくとも年に1回は「使っている物質の一覧」と「リスクアセスメントの結果」を委員会で確認し、管理の実態を見直す機会にしてください。

5.健康診断と記録の保存を確認する

リスクアセスメントの結果、労働者の健康に影響があると考えられる場合には、医師または歯科医師が必要と認める項目について「リスクアセスメント対象物健康診断」を行うことになっています。従来の特殊健康診断のように項目や頻度が一律に決まっているのではなく、事業者が産業医などの意見を聴いて要否と内容を判断する仕組みです。 [S3]

また、がん原性物質として厚生労働大臣が定める物質については、労働者の作業の記録、健康診断の結果などを30年間保存する必要があります。対象物質は令和9年4月1日以降に適用されるものも含めて一覧が公表されています。自社の取扱物質が該当しないか、棚卸しの段階で確認しておきましょう。 [S1] [S2]

産業医・労働衛生コンサルタントとして、松田はこう考えます

化学物質の自律的管理で中小企業が最も困るのは、「何を、どこまでやれば合格なのか」が外から示されない点です。法令は結果責任を事業者に委ねており、労働基準監督署の調査でも「リスクアセスメントを実施し、記録し、労働者に周知しているか」が確認されます。完璧な測定よりも、①物質一覧、②SDS、③管理者の選任記録、④リスクアセスメントの記録、⑤委員会の議事録の5点が揃っていることを優先すべきです。 [S2]

当事務所では、産業医として職場巡視を行う際に、化学物質の取扱状況と保護具の使用状況をあわせて確認し、労働衛生コンサルタントとして、棚卸しからリスクアセスメントの記録様式づくりまでを支援しています(労働衛生コンサルタントによる支援)。

よくある質問:従業員30人の工場でも化学物質管理者は必要ですか

事業場の規模ではなく、リスクアセスメント対象物を製造または取り扱っているかどうかで決まります。取り扱っていれば、従業員数にかかわらず選任が必要です。 [S2]

よくある質問:SDSに「該当なし」と書かれた製品は対象外ですか

GHS分類で危険性・有害性に該当しない製品は、ラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントの対象外です。ただし、SDSが古い場合は分類が更新されている可能性があるため、最新版で確認してください。 [S2]

まとめ:来年4月までに「5点セット」をそろえましょう

  • 取扱物質の一覧と最新版SDS
  • 化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任記録
  • リスクアセスメントの実施記録(簡易ツールで可)
  • 衛生委員会(または労働者の意見聴取)の記録
  • 健康診断の要否判断と、がん原性物質に該当する場合の30年保存

参考資料

[S1] 化学物質による労働災害防止のための新たな規制について|厚生労働省(資料取得日:2026-10-27)

[S2] 労働安全衛生法の新たな化学物質規制(厚生労働省 概要資料PDF)(資料取得日:2026-10-27)

[S3] リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン(厚生労働省PDF)(資料取得日:2026-10-27)

一般的な情報提供を目的としています。個別の対応は産業医等の専門家にご相談ください。施行日・対象物質は参考資料のリンク先で最新の情報をご確認ください。

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本記事は2026-10-27時点で確認した公的資料に基づきます。

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産業医 / 労働衛生コンサルタント(保健衛生) / 健康経営専門医 松田悠司

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