「うちは従業員が50人に満たないから、ストレスチェックは関係ないと思っていた」「義務になると聞いたが、社内に産業医も保健師もいない。何から手を付ければよいのか分からない」。中小企業の経営者や人事・総務担当者の方の中には、このようにお感じの方もいるのではないでしょうか。 [S1]
令和7年の労働安全衛生法の改正により、これまで努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場でも、ストレスチェックの実施が義務とされました。施行は令和10年(2028年)4月1日です。この記事では、厚生労働省が公表した「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」とその概要版(スタートガイド)に沿って、小規模な事業場が施行までに準備しておきたいことを5つに整理して解説します。このマニュアルは、50人未満の事業場に即して、労働者のプライバシーが保護される実施体制・実施方法を示したものとされています。 [S1] [S2]
ストレスチェック制度の基本をおさらい
ストレスチェックは、2015年から労働安全衛生法により事業者に実施が義務付けられてきました。ただし、労働者数50人未満の事業場は、当分の間努力義務とされていました。今回の改正は、この小規模事業場の扱いを変えるものです。 [S3]
「ストレスチェック」とは、労働者がストレスに関する質問票(選択式)に回答し、自身のストレスの状態を知ってもらうための簡単な検査です。スタートガイドでは、事業者は1年ごとに1回ストレスチェックを実施し、次の3つにつなげるという流れが示されています。 [S3]
- 労働者に、自身のストレスへの気付き・セルフケアを促す
- 高ストレスの労働者に、医師の面接指導の機会を提供し、医師の意見を踏まえて必要な就業上の措置を行う
- 集団分析を通じて職場ごとのストレス要因を把握し、職場環境の改善につなげる
大切なのは、制度の目的がメンタルヘルス不調の「未然防止」にあり、不調者を見つけ出すことではない、という点です。スタートガイドでは、メンタルヘルス不調になると病休期間は平均で約3か月、復職後に再び病休になる割合も約半数とされ、小規模事業場にとっては大きな人材の損失になると指摘されています。 [S3]
1.会社の方針を示し、社内ルールを作る
準備の第一歩は、事業者が実施責任者として、制度を導入する方針を表明することです。そのうえで、社内の実施体制や実施方法について労働者の意見を聴き、社内ルールを作成して周知します。マニュアルには、方針表明や社内ルール(規程)のモデル例が掲載されています。 [S3]
例えば、朝礼や全体ミーティングで「ストレスチェックは不調者探しではなく、働きやすい職場づくりのために行う」と経営者自身が伝えるだけでも、従業員の受け止め方は変わります。モデル例をそのまま使うのではなく、自社の規模や勤務形態に合わせて調整していきましょう。 [S3]
2.実務担当者を決め、外部の委託先を選ぶ
小規模事業場では、労働者のプライバシー保護の観点から、原則として外部委託による実施が推奨されています。事業場内では、委託先との契約や連絡調整を行う実務担当者を指名します。実務担当者には、衛生推進者または安全衛生推進者を選任することが望まれるとされています。 [S3]
委託先を選ぶ際は、外部機関に「サービス内容事前説明書」を作成・説明してもらい、提案内容を確認します。特に料金体系については、どこまでが標準サービスで、どこからがオプションなのかを確認することが勧められています。外部機関の提案を踏まえ、実施時期や調査票の項目、紙かウェブかといった調査形態も決めていきます。調査票は、国が推奨する57項目版のイメージがスタートガイドに示されています。 [S3]
例えば、複数の外部機関から見積もりを取り、「集団分析は標準に含まれるか」「医師の面接指導はオプションか」を同じ表に並べて比べると、契約後に想定外の追加費用が生じることを防ぎやすくなります。 [S3]
3.医師の面接指導の依頼先を決めておく
高ストレスと判定された労働者は、申し出ることで医師の面接指導を受けることができます。申出があった場合、事業者は医師に面接指導を依頼し、その結果に基づいて医師の意見を聴取し、医師の意見を踏まえて必要な就業上の措置を実施します。 [S3]
産業医がいない事業場では、申出があってから依頼先を探すと対応が遅れがちです。スタートガイドでは、面接指導の依頼先として次のような選択肢が挙げられています。 [S3]
- 外部機関のオプションサービス
- 地域産業保健センター(厚生労働省が設置する小規模事業場の支援機関)
- 産業保健に対応する医療機関等(別途契約)
あわせて、マニュアルを参考に、労働者が安心して申出できる環境を整えることが重要とされています。 [S3]
4.個人結果の取扱いと不利益取扱いの防止を徹底する
調査票の配布・回収や個人結果の通知は、委託先から労働者へ直接行われます。個人結果は事業者には提供されず、個人結果などの健康情報の取扱いは外部機関で完結し、事業場内では取り扱わない体制がイメージとして示されています。 [S3]
労働者のプライバシーの保護を徹底し、不利益な取扱いを防止することが重要です。事業者がやってはいけない禁止事項は、マニュアルで具体的に確認しておきましょう。例えば、「結果を見せてほしい」と上司が本人に求めるような運用になっていないか、社内ルールの段階で点検しておくと安心です。 [S3]
5.集団分析を職場環境の改善につなげる
事業者には、個人が特定されない方法で集団ごとに集計・分析した結果が提供されます。ただし、集団の単位が10人を下回る場合は、個人が特定されるおそれがあることから、原則として集団分析結果の提供を受けてはいけないとされています。小規模事業場では、部署ごとに分けると10人に満たない場合もあるため、集計の単位を委託先とあらかじめ相談しておきましょう。 [S3]
スタートガイドでは、集団分析を通じて職場環境のストレス要因を把握し、軽減に取り組むよう努めましょう、とされています。なお、集団分析の実施方法については、2026年6月30日に労働安全衛生規則の改正が行われたと案内されています。 [S1] [S3]
よくある質問
Q.社内に相談できる専門職がいません。どこに相談すればよいですか?
ストレスチェック制度の実施方法などについて相談できる電話窓口として「ストレスチェック制度サポートダイヤル」が設けられています。また、全国に設置されている47の産業保健総合支援センターでは研修・セミナーが開催されており、専門スタッフが事業場を直接訪問し、制度導入について助言する支援も無料で行われているとされています。 [S1]
Q.高ストレスと判定された社員が、面接指導を希望しない場合はどうすればよいですか?
面接指導を受けることを選択しなかった労働者も高ストレスの状態で放置されないよう、面接指導以外の相談できる窓口について案内することが重要とされています。厚生労働省の「こころの耳」相談窓口(電話・メール・SNS)は、どなたでも無料で利用できると案内されています。 [S1] [S3]
まとめ:施行までの時間を使って、無理のない体制づくりを
50人未満の事業場のストレスチェック義務化は、令和10年4月1日に施行されます。方針の表明と社内ルールづくり、実務担当者と委託先の選定、面接指導の依頼先の確保、個人情報の取扱いの徹底、集団分析の活用という順で準備を進めると、従業員が安心して受けられる仕組みに近づきます。厚生労働省のマニュアルや支援機関も活用しながら、自社の規模に合った形で計画的に準備していきましょう。 [S1] [S3]
参考資料
[S1] ストレスチェック制度について(労働者数50人未満の事業場)|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト(資料取得日:2026-10-07)
[S2] 労働者数50人未満の事業者も ストレスチェック が義務になります!.pdf(資料取得日:2026-10-07)
[S3] 「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」スタートガイド.pdf(資料取得日:2026-10-07)
一般的な情報提供を目的としています。個別の対応は産業医等の専門家にご相談ください。
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本記事は2026-10-07時点で確認した公的資料に基づきます。制度の最新情報は参考資料のリンク先をご確認ください。
ご相談・お問い合わせ
「ストレスチェックが義務になると聞いたが、50人未満の自社では何から準備すればよいかわからない」「高ストレスの社員から面接指導の申出があったとき、相談できる医師がいない」とお悩みではありませんか。
あいち松田産業医事務所では、企業様の状況を伺い、ストレスチェック制度の導入準備や実施後の対応、職場のメンタルヘルス対策について、必要な支援をご提案しています。「まずは現状を相談したい」という段階でも構いません。
例えば、次のような内容についてご相談いただけます。
- 50人未満の事業場でのストレスチェック導入の進め方や、社内ルールの整理について相談したい
- 高ストレスと判定された社員への医師の面接指導や、就業上の措置についての意見を依頼したい
- 集団分析の結果を、職場環境の改善にどうつなげればよいか相談したい
産業医 / 労働衛生コンサルタント / 健康経営エキスパートアドバイザー 松田悠司
