産業医と社労士の連携でできること|名古屋・愛知の中小企業の労務と健康管理の分担表

「休職中の社員の復職を判断したいが、就業規則の規定と医師の意見のどちらを優先すればよいか分からない」「長時間労働の対策を社労士さんに相談したら、面接指導は産業医に、と言われた」。人事・労務担当者の方には、このような疑問はないでしょうか。労務の専門家である社会保険労務士と、健康管理の専門家である産業医は、扱う領域が重なる場面が多い一方で、法律上の役割ははっきり分かれています。

この記事では、両者の役割の違いを法令に沿って整理し、連携が必要になる4つの場面と、会社が窓口として押さえておきたい分担を表にまとめます。

産業医と社労士の役割の違い

産業医は、労働安全衛生法第13条と同法施行令第5条により、常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任が義務づけられている医師で、事業者は産業医に「労働者の健康管理等」を行わせなければなりません。その内容は労働安全衛生規則第14条で、健康診断とその結果に基づく措置、長時間労働者などへの面接指導、ストレスチェックと面接指導、作業環境や作業の管理、健康教育・健康相談、衛生教育、健康障害の原因調査と再発防止などと定められています。 [S1] [S2]

社会保険労務士は、労働・社会保険の手続きや、就業規則・賃金規程などの作成、労務管理の相談・指導を担う専門家です。全国社会保険労務士会連合会は、就業規則の作成業務は社労士法第2条第1項第2号に規定する社労士の業務であるとしています(会社自身が作成することはできますが、報酬を得て代行できるのは社労士です)。 [S3] [S4]

領域主に担う専門家会社が決めること
就業規則・休職規程の作成と改定社労士規程の内容(休職期間、復職の手続き)
健康診断の結果に基づく就業上の意見産業医意見を踏まえた就業上の措置
長時間労働者の面接指導と意見産業医労働時間の把握、措置の実施
36協定・労働時間管理の仕組み社労士協定の締結、運用
ストレスチェックの実施体制(実施者・規程)産業医(実施者)/社労士(規程の整備)実施規程の決定、衛生委員会での審議
休職・復職の判断産業医(医学的な意見)/社労士(規程の適用)最終的な復職の決定

最後の列のとおり、最終的に決めるのはどちらの専門家でもなく会社です。2人の専門家の意見を、会社が判断するための材料として使う、という整理が出発点になります。

連携が必要になる4つの場面

1. 休職・復職

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」は、休業開始から復帰後のフォローアップまでを5つのステップで示し、主治医の復職可能の判断は日常生活の回復程度によることが多く、業務遂行能力の回復を必ずしも示すものではないとしています。そのうえで、産業医等が主治医と連携して医学的な判断の中心となり、就業上の配慮について事業者に意見を述べることを求めています。 [S5]休職期間や復職の手続きを定めるのは就業規則(社労士の領域)、復職できる状態かを医学的に評価するのは産業医、という分担です。規程に「復職の際は産業医の意見を聴く」と明記しておくと、判断の流れが揃います。

2. 長時間労働

時間外・休日労働の管理や36協定の整備は社労士、時間外・休日労働が月80時間を超えて疲労の蓄積が認められる労働者から申出があったときの面接指導は医師(産業医)の役割です。 [S2]労働時間のデータを産業医へ渡す流れを、社労士と一緒に決めておくと漏れが減ります。詳しくは「長時間労働が発生したら企業は何をすべきか」をご覧ください。

3. ストレスチェック

ストレスチェックの実施者は医師・保健師などに限られます(労働安全衛生規則第52条の10)。 [S2]実施規程の作成や、結果の取扱いを就業規則等と整合させる作業は社労士と、実施と面接指導は産業医と進めます。2028年4月1日からは従業員50人未満の事業場も実施が義務になります(令和8年政令第195号)。 [S6]

4. 就業上の措置と規程の整合

産業医が「残業禁止」「夜勤の免除」などの意見を出しても、規程や賃金の扱いが決まっていなければ、現場で実施しにくくなります。措置の種類ごとに、賃金や手当をどう扱うかを社労士とあらかじめ整理しておくと、意見を出したあとの運用がスムーズです。

連携をうまく進めるための3つの工夫

  1. 会社に窓口を1人置く:産業医と社労士が直接やり取りする場合も、会社の担当者を必ず通し、決めた内容を記録に残します
  2. 健康情報の範囲を決める:社労士に共有するのは、就業上の措置に必要な範囲(措置の内容と期間)に限り、診断名や検査値は原則として共有しません
  3. 年に1回、規程と運用を突き合わせる:衛生委員会の議題に「休職・復職規程の運用状況」を入れ、産業医と社労士の双方の意見を反映します

よくある質問:社労士がいれば産業医はいらないのでは?

いいえ。常時50人以上の事業場では、産業医の選任は労働安全衛生法上の義務で、社労士が代わることはできません。 [S1]反対に、50人未満の事業場では産業医の選任義務はありませんが、健康診断で異常の所見があった労働者についての医師の意見聴取は事業者の義務です(労働安全衛生法第66条の4)。 [S1]地域産業保健センターや、スポットで依頼できる産業医の活用を検討してください。

よくある質問:産業医が就業規則を作ることはできますか?

就業規則の作成は社労士の業務とされており、産業医の役割ではありません。 [S3]ただし、休職・復職や健康診断に関する規定の内容について、医学的な観点から意見を述べることはできます。

参考資料

[S1] e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第13条・第66条の4(資料取得日:2026-10-29)

[S2] e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」第14条・第52条の2・第52条の10(資料取得日:2026-10-29)

[S3] 全国社会保険労務士会連合会「就業規則の作成は社労士へ」(資料取得日:2026-10-29)

[S4] 全国社会保険労務士会連合会「相談・指導業務」(資料取得日:2026-10-29)

[S5] 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(資料取得日:2026-10-29)

[S6] 厚生労働省「労働安全衛生法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令案」(施行期日:令和10年4月1日)(資料取得日:2026-10-29)

[S7] e-Gov法令検索「労働安全衛生法施行令」第5条(資料取得日:2026-10-29)

一般的な情報提供を目的としています。個別の対応は産業医等の専門家にご相談ください。

あわせて読みたいコラム

本記事は2026-10-29時点で確認した公的資料に基づきます。制度の最新情報は参考資料のリンク先をご確認ください。

ご相談・お問い合わせ

あいち松田産業医事務所は、名古屋市・愛知県内の事業場を訪問しています。産業医と社労士の連携について、「まずは現状を相談したい」という段階でも構いません。

例えば、次のような内容についてご相談いただけます。

  • 顧問の社労士と産業医の役割分担を整理したい
  • 休職・復職の規程に、産業医の意見を聴く手順を入れたい
  • 長時間労働者の面接指導を、労働時間の管理とつなげたい

産業医と社労士の連携のご相談はこちら

産業医 / 労働衛生コンサルタント(保健衛生) / 健康経営専門医 松田悠司

この記事を書いた人