「健康診断の結果を上司に見られたくない」「再検査になったことが会社に知られて、評価に影響しないか心配」。従業員の方からこうした不安を聞く一方で、人事・総務の担当者からは「結果をどこまで見てよいのか、誰に見せてよいのか分からない」という相談をよく受けます。
健康診断の結果は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたる機微な情報です。一方で、会社には従業員の健康を守るために結果を把握し、必要な措置をとる義務もあります。この記事では、厚生労働省の指針と手引きに沿って、会社が扱ってよい範囲、本人の同意が必要な場面、担当者を限定する考え方を、従業員と会社の双方の視点から整理します。 [S1] [S2]
前提:会社は健康診断の結果を「知らなければならない」
労働安全衛生法では、事業者に定期健康診断の実施義務があり、労働者にも受診義務があります。さらに、健康診断の結果について医師の意見を聴き、必要があれば就業場所の変更や労働時間の短縮などの措置を講じることが事業者に求められています。つまり、会社が結果をまったく見ないという運用は、法律上できません。 [S3]
問題は「見るかどうか」ではなく、「誰が、どの範囲を、何のために見るか」です。ここを規程として定めることが、労働安全衛生法第104条に基づく指針で事業者に求められています。 [S1]
健康情報は3つに分かれる
厚生労働省の指針と手引きでは、健康情報を次の3つに分類しています。この分類を知っておくと、「会社が見てよい情報」と「本人の同意がいる情報」の境目が分かります。 [S1] [S2]
| 分類 | 主な情報 | 本人同意 |
|---|---|---|
| ①事業者が必ず取り扱う情報 | 健診を受けたかどうか、面接指導の申出の有無、医師から聴いた就業上の措置に関する意見 | 不要(法令に基づく) |
| ②同意なく収集できるが、取扱いを規程で定める情報 | 法定項目の健診結果(血圧・血液検査など)、法定項目と同じ内容の再検査結果、面接指導の結果 | 収集前の同意は不要だが、目的・方法の周知が必要。社内で誰が扱うかを限定する |
| ③収集前に本人同意が必要な情報 | 法定外項目の検査結果、精密検査の結果、がん検診の結果、通院状況、治療と仕事の両立支援のための医師の意見書、職場復帰面接の結果 | 必要 |
従業員の方が心配する「再検査の結果」や「精密検査の結果」は、法定項目と同じ内容の再検査なら②、精密検査や病名が分かる情報は③にあたります。③は会社が勝手に集めることはできず、本人が同意して提出したときに限られます。 [S1]
会社の中で「誰が見るか」を限定する
手引きでは、健康情報を扱う担当者を、人事権を持つ管理職、産業保健業務従事者(産業医・保健師など)、現場の管理監督者、人事部門の事務担当者に分け、それぞれが扱う範囲を衛生委員会などで労使が話し合って決めるとしています。 [S2]
産業医がいる事業場では、②の情報(検査値そのもの)は主に産業医・保健師が扱い、人事や上司には「所見の有無」や「就業上の措置に関する医師の意見」に加工した情報だけを渡す、という運用が推奨されています。上司が血液検査の数値まで見る必要は、通常ありません。 [S1] [S2]
産業医のいない50人未満の事業場では、人事担当者が扱う範囲が広がりやすいため、取扱者を1〜2名に限定し、閲覧できる場所や保管方法を決めることがいっそう重要です。 [S2]
結果を理由にした不利益な扱いは原則として認められない
指針では、同意しないことや健康情報の内容を理由に、解雇、契約の不更新、退職勧奨、不当な配置転換などを行うことは、原則として行ってはならないとされています。就業上の措置が必要な場合でも、医師の意見を聴き、本人と話し合ったうえで、業務上の必要性に見合った範囲で行うのが基本です。 [S1]
従業員の方へ:知っておきたい3つのこと
- 法定項目の健診結果は、会社が受診勧奨や就業判定のために把握することが法律で想定されています。「見られたくない」という理由で受診しないことは、本人の受診義務にも反します
- 精密検査の結果や病名、通院状況は、本人の同意なしに会社が集めることはできません。提出を求められたときは、何の目的で、誰が見るのかを確認して構いません
- 「要再検査」「要精密検査」の判定が出たこと自体は、会社に伝わります。受診した結果を会社にどこまで伝えるかは、産業医や保健師に相談しながら決められます
人事・総務の方へ:最低限整えておきたいこと
- 健康情報の取扱規程を定め、従業員に周知する(手引きに規程例があります)
- 健診結果の保管場所と閲覧できる担当者を決め、上司には加工した情報だけを渡す運用にする
- 受診案内に「結果の取扱いの目的と方法」を記載し、②の情報の周知を済ませておく
- 精密検査の結果など③の情報を求めるときは、目的を説明し、本人の同意を記録に残す
産業医として、松田はこう考えます
従業員が「結果を会社に見られたくない」と感じていると、再検査の受診をためらい、病気の発見が遅れるおそれがあります。会社が検査値を直接扱わず、産業医や保健師が間に入って「所見あり・なし」「就業上の配慮の要否」に置き換えて伝える仕組みは、従業員の安心と会社の義務の両方を満たします。当事務所では、健診結果の確認と医師意見の作成を会社の人事担当者が検査値を扱わずに済む形で行っています(健診後対応サポート)。
よくある質問:上司は部下の健診結果を見てよいですか
法定項目の検査値そのものを上司が見る必要は通常なく、手引きでも担当者を限定することが推奨されています。上司に伝えるのは、就業上の配慮が必要かどうかという医師の意見に留めるのが適当です。 [S2]
よくある質問:従業員が精密検査の結果を出してくれません
③の情報は本人の同意が前提ですので、強制はできません。ただし、医師の意見聴取のために必要な範囲で、産業医が本人から直接聴き取り、会社には就業上の措置に関する意見だけを伝える方法があります。
参考資料
[S1] 労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針(厚生労働省PDF)(資料取得日:2026-10-27)
[S2] 事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き(厚生労働省・2019年3月)(資料取得日:2026-10-27)
[S3] 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)第66条・第66条の4・第66条の5・第104条(資料取得日:2026-10-27)
一般的な情報提供を目的としています。個別の対応は産業医等の専門家にご相談ください。
あわせて読みたいコラム
- 健康診断後の「医師の意見聴取」とは?中小企業が見落としやすい対応を産業医が解説
- 「要再検査」「要精密検査」の社員に会社はどう対応すべきか?産業医が解説
- 健康診断後の対応チェックリスト|中小企業が確認すべき10項目
本記事は2026-10-27時点で確認した公的資料に基づきます。
ご相談・お問い合わせ
「健康情報の取扱規程をこれから作りたい」「人事が検査値を見ずに済む健診後の運用にしたい」という名古屋市・愛知県内の事業場の方は、あいち松田産業医事務所にご相談ください。産業医契約のない事業場でも、スポットでの健診結果確認と医師意見の作成に対応しています。
産業医 / 労働衛生コンサルタント(保健衛生) / 健康経営専門医 松田悠司
